最終年度である令和5年度においては、「焼いて食べる」のようなテ形複雑述語と「押し開ける」のような複合動詞を対象に、独自の「関連事象アプローチ」に基づいて検討した。その結果、テ形複雑述語は因果関係がなくても成立しうるが、複合動詞は直接的または共有的な因果関係を必要とすることが示された。また、「効率性」の観点から、概念的にアクセスしやすい(記憶しやすい)事象(因果性あり)は、アクセスしにくい事象(因果性なし)よりも単純な形式(複合動詞)で表現される傾向があることを示した。その上で、形式の複雑さの違いは頻度ではなく、概念の性質に起因するものであることを統計的因果推論で示すことで、「類像性対頻度」の議論に貢献した。この研究成果をThe 16th International Cognitive Linguistics Conferenceで発表した。 研究期間全体を通じて、本研究はブラックボックスとして用いられてきた百科事典的知識に対し、動詞の関連事象の中身を明らかにしてきた。その上で、結果や目的の中において本質的に異なるものを分類し、それを利用するための言語理論モデルを構築することで「ホワイトボックス化」を試みた。それによって、解像度の高い関連事象に基づく言語分析という新たな領域を創出した。 具体的に、高解像度の関連事象に基づく実践的な分析例として、1) 複合動詞と複雑述語、2) 広い意味の結果構文、3) 目的を伴う移動表現を取り上げ、異なる言語形式における関連事象の違いを、類型論的・形態論的要因、及びその掛け合わせから生じる創発的な制約から解明した。これらの成果は既に2本の研究論文と7回の口頭発表で広く発信した。後続の論文や書籍も公開される予定である。
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