研究課題/領域番号 |
21K12987
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研究機関 | 獨協大学 |
研究代表者 |
佐藤 恵 獨協大学, 外国語学部, 専任講師 (50820677)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ドイツ語史 / 歴史社会言語学 / 歴史語用論 / 話しことば / 言語の標準化 / 言語意識 / 言語規範 |
研究実績の概要 |
ドイツ語史においてドイツ語圏南東部のバイエルン・オーストリア方言圏は、文章語の標準化が最も遅い地域であった。ここでは長い間、神聖ローマ帝国官房の伝統を汲む文章語が力を持ったが、18世紀中葉になってから、標準的な東中部ドイツ語文章語(中心地はドレスデン、ライプツィヒ)に切り替わっていった。1800年頃には、この標準的な文章語がバイエルン・オーストリア方言圏の官僚や教養層の書きことばに広く浸透していた。ただし、この頃のこの地の話しことばにおいて標準ドイツ語がどの程度浸透していたかについては、書きことばの場合と比べると研究がはるかに遅れている。 そこで本研究で言語資料としたのが、聴力を失ったベートーヴェンがバイエルン・オーストリア方言圏のウィーンで1818年から1827年まで用いた筆談帳である。聴力を失った晩年のベートーヴェンは、居を構えたウィーンで筆談帳を用いて会話していた。筆談帳には、家族、友人から家政婦に至るまで、さまざまな人物たちが生活のなかの会話を書き込んでいる。この筆談帳に書き込まれた発話を19世紀初頭のバイエルン・オーストリア方言圏の話しことばにおける標準化の進捗状況を調査するための基礎資料として、2021年度は筆談帳に登場する人物別にそれぞれの言語のデジタルデータ化を進めた。また同時に、各データにどのような社会言語学的・語用論的変数(教養の程度や職業などの社会的属性、話し手と聞き手の親疎関係、発話の意図など)を当てるのが適切であるのかについても検討を試みた。その結果、学校教育を十分に受けていないと思われる人物と、教養が高い人物(ベートーヴェンの甥カールが通う学校の校長先生、ウィーン新聞の編集長など)の間には、明らかな言語使用の差が確認できることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を進めるうえで必要なデータはすでにほぼできあがっており、社会言語学的・語用論的変数についてもほぼ特定化ができた。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、話し手別のデータを完成したうえで、「誰が誰に対して」、「どのような場面・状況で」、「どのような用件(意図)で」なされた会話であるのか、つまり社会的属性と発話状況という2つの観点から異形選択に関わる言語意識を復元するべく、質的な分析をさらに進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
18世紀・19世紀におけるドイツ語史に詳しいシュテファン・エルスパス教授(オーストリア・ザルツブルク大学)を訪ねて研究上の助言を得るとともに、ドイツ語史とベートーヴェン研究に関する資料調査を行う目的でドイツ・オーストリアに赴く予定であったが、コロナ禍のために海外渡航と中止したため、未使用額が生じた。
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