研究課題/領域番号 |
21K12998
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
加納 希美 金沢大学, 歴史言語文化学系, 講師 (00825094)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 現代中国語 / 構文 / 変化叙述 / 誇張 / 数量詞 / 臨時量詞 / 描写 / 程度 |
研究実績の概要 |
本研究は、現代中国語の普通話(標準語)における数量詞について、特に何らかの変化叙述を伴う構文中の機能に着眼して、その体系化を目指すものである。当該年度においては、特に「萌え」の情意による顔面の状態変化を述べる二重目的語構文(「萌え構文」と称する)を変化叙述構文の一種として取り上げ、構文論的、及び修辞論的観点から統語構造と意味の関連や、表現中の数量詞の機能を考察した。考察においてはミニブログ(Weibo)への投稿記事から成る口語コーパスを利用し、まず、萌え構文において数量表現の機能拡張が見られることを指摘した。その上で、数量表現の一部を構成する成分の語彙的特徴や使用頻度の比較、更には、当該成分の省略形式に関する使用実態の考察を通じて、機能拡張の要因について次の事を明らかにした。顔中血まみれの状態を描写する数量詞句“一臉血(顔中の血)”は、「萌え」の情意を表すある種の二重目的語構文において、情意発生後に当事者の顔面に出現した状態を描写する。しかし、描写内容の誇張性、及び当該構文のイディオム化に端を発する描写の形骸化や忌避等の複合的要因が“血”の省略をもたらし、これに伴い、描写機能に代わって語用論的意味としての程度性(すなわち「萌え」の情意の強さ)が“一臉”自体の機能として前景化した。当該研究の成果としては、まず6月にオンライン開催された「中国語文法研究会」にて研究成果の一端と今後の見通しを発表し、研究会にて得られた知見を取り込みながら更に調査を進め、その結果を原稿にまとめて論文発表の準備を整えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度において考察した「萌え構文」は、近年特に口語の表現において高頻度で使用されるようになった構文であるが、当初考察対象として想定していた「攻撃」を表す構文と極めてよく似た構造上の特徴を持ちながらも、述語成分の文法機能や表現全体としての構文的意味特徴は、「攻撃」構文のそれとは異なるものであることが、実例分析の過程で判明した。しかしながら、先行研究では当該構文の特徴について殆ど論じられていないため、本研究では、「攻撃」構文との比較対象として「萌え構文」に関する問題の解明を優先し、これにより今後の研究の充実を図ることとした。初年度中の学術誌での論文発表は実現しなかったものの、次年度中の論文発表の見通しは充分に立っていると言える。また、初年度の研究活動として予定していたコーパス検索ツール開発および関連データベースの構築については、西安電子科技大学の陳会林教授を中心とする研究グループとの連携が可能となり、定期的な意見交換会を経てツールの初歩的実用化が達成された。関連データベース構築のための資料整形についても概ね計画通りに遂行している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は道具や身体の語彙を伴って「攻撃」を表す二重目的語構文を考察の中心に据え、同一の構造をもつ「被害」や「萌え」を表す構文との関連性について、3つの側面(構文の構造と意味、数量詞の機能)に着目しながら解明を試みる。また、コーパス検索ツールについては、近くパラレル表示機能の改良が見込めるが、今後も更なる機能拡張を目指して討論を重ねる予定である。また、データベース拡充により当該ツールを有効活用するため、データ整形作業を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大防止のため、従来対面で実施されていた学会や研究会等が2021年度においてはオンラインで開催されることになったことや、他県への主張による資料収集を自粛したことにより、旅費は全く使用されなかった。また、謝金については、作業に従事可能な留学生が、新型コロナウィルス感染拡大の影響により渡日できなかったことや、作業を依頼した学生の学業を優先すべき事情が生じたこと等により、充分な作業時間数を確保できなかったことから、当初の予定通りの予算執行が困難であった。次年度には学生の進学状況等から、全体として多くの作業時間数を確保し、データベース拡充を加速させられる見込みであるが、これには当初の計画より多くの経費を要するため、今年度繰り越し分を、その謝金費用に充てる予定である。その他の経費については、基本的に当初の計画に沿って執行する予定である。
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