研究実績の概要 |
本研究の目的は、第一言語・第二言語における知覚的補完能力(=人間の脳が崩れた情報を補完して理解する能力)を調べることにある。特に、英語の母語話者や日本語の母語話者の音声知覚過程に着目し、母語の異なる音声聴取者が、物理的に存在しない音声や音響的に劣化した音声を、どのように知覚上で補って理解するのかを調べることにある。
2021年度は、日本語母語話者の第一言語(=日本語)・第二言語(=英語)における知覚的補完について、音声聴取実験の結果を解析しながら、考察した。実験では、音声波形(例: 200ms)を音声の開始地点から一定の時間区間で区切り(例:100ms)、それぞれの区間(例:0-100, 100-200)を時間軸上で反転させた「時間反転音声」(例:100-0-200-100)を作成した。その際、一つの音声(有意味語・無意味語)に対して、6種類の時間反転音声を作成し(10, 30, 50, 70, 90, or 110 msごとに時間反転)、その音声明瞭度を音声知覚実験を行って調べた。その結果、時間反転音声の明瞭度は、時間反転区間が長くなるにつれて低くなることが確認された。また、日本語母語話者は、日本語の時間反転音声を、英語の時間反転音声よりもよく理解することがわかった(=母語の優位性)。尚、日本語と英語において、「有意味語」は「無意味語」よりもよく理解されたが、単語を構成する音素の割合がことばの理解に影響した(=摩擦音の多い単語が閉鎖音の多い単語よりもよく理解された)のは、日本語で時間反転音声を聞いた場合のみであった。尚、過去の実験結果と照らし合わせると、全体的に日本語の時間反転音声は、英語の時間反転音声よりも音声明瞭度が高いことが示唆され、日本語の言語構造(V・CV構造)が知覚的補完のしやすさに寄与している可能性が示された。
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