研究課題/領域番号 |
21K13009
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
呂 芳 立命館大学, 言語教育センター, 嘱託講師 (20745989)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 格助詞「ニ」 / 助詞の脱落 / 動詞の種類 / 時間名詞 / 形式名詞 / 中国語の結果補語 |
研究実績の概要 |
中国語を母語とする日本語学習者における「ニ」の脱落について研究を進めている。 ①まず「ニ」と共起する動詞の種類と意味特徴は「ニ」の脱落との関係について探ってみた。動詞の種類は工藤(1995)の動詞分類に基づき、「ニ」の脱落の誤用例を整理してみた。動詞の種類によって「ニ」の脱落が起こりやすいグループが観察された。例えば,(A)外的運動動詞のうち,「客体の状態変化・位置変化を引き起こす動詞」を述語とする文においては,相手や変化の結果,存在場所を表す名詞の後, (B)内的情態動詞のうち,感情動詞と知覚動詞を述語とする文においては,動詞が求める対象と主体を表す名詞の後, (C)静態動詞のうち,「ある、いる」を代表とする存在動詞を述語とする文については存在場所を表す名詞の後に「ニ」の脱落が目立った。以上のことから学習者が「ニ」の脱落が起こりやすい文について述語となる動詞の特徴を明らかにし,「ニ」の脱落は動詞の種類より動詞自身が表す意味特徴のほうが「ニ」の脱落に影響を与えるということが分かった。上記の研究内容は2021年8月に行われた研究会で口頭発表をし,現在投稿論文として審査中である。 ②脱落した「ニ」とそれに前接する名詞句との関係について研究をした。脱落した「ニ」に前接する名詞句に注目すると,「時間名詞」と「形式名詞」の後に「ニ」の脱落が多いことに気づく。時間名詞の後の「ニ」の脱落は時間名詞の種類に関係し,脱落実態は学習歴が異なる学習者の間にバリエーションが見られる。脱落の「ニ」に前接する形式名詞のうち,時間を表すものが最も多く,「時間名詞」と同じような動きが観察された。そのほかに「こと」「ところ」の後に「ニ」の脱落が目立った。上記の内容は2021年10月と2022年2月に行われた研究会で発表し,「時間名詞」の後の「ニ」の脱落について書いた論文は採用された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初に提出した計画は2021年に格助詞「ニ」の過剰使用,2022年に格助詞「ニ」の脱落について研究するということであったが,実際にデータを見てみると,過剰使用より脱落の誤用が明らかに多かったことが分かり,「ニ」の脱落のほうにより時間がかかると見込み,研究の順番を変えて「ニ」の脱落から着手することにした。 研究計画書に記載したとおりに脱落した「ニ」の誤用データを収集し,「ニ」と結びついた名詞句または「ニ」と共起した動詞の種類という面から研究を進めている。2021年8月に「動詞の種類と日本語の格助詞「に」の誤用パターン―中国語の結果補語との対照にも注目―」を題目にし,2021年日本語の誤用及び第二言語習得研究国際シンポジウムで口頭発表をした。また2021年10月19日に東アジア言語文化学会10月月例会で「中国人日本語学習者の格助詞「ニ」の脱落について―時間名詞の後の「ニ」の脱落を中心に―」, 2022年2月20日に東アジア言語文化学会第2回大会(2021年度冬季大会)で「中国語を母語とする日本語学習者における格助詞「ニ」の脱落について―形式名詞に後接する「ニ」の脱落を中心に―」について発表した。 また上記の発表を踏まえて論文は2点作成した。「中国語を母語とする日本語学習者における格助詞「ニ」の脱落について―時間名詞に後接する「ニ」の脱落を中心に―」を題目とする論文は採用され2022年7月に出版される予定である。「動詞の種類と日本語の格助詞「ニ」の脱落―中国語の結果補語との対照にも注目―」は3月に投稿し,只今査読中である。
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今後の研究の推進方策 |
当初に提出した計画は2021年に格助詞「ニ」の過剰使用,2022年に格助詞「ニ」の脱落について研究するということであったが,実際にデータを見てみると,過剰使用より脱落の誤用が明らかに多かったことが分かり,「ニ」の脱落のほうにより時間がかかると見込み,研究の順番を変えて「ニ」の脱落から着手することにした。そのため,2022年に「ニ」の脱落について引き続きやっていくと同時に,「ニ」の過剰使用についても本格的に研究を始めたいと考えている。 格助詞「ニ」の脱落と過剰使用は今までの研究手法でその実態を明らかにしたうえで,特に脱落と過剰使用が多かった誤用例についてさらに細かく掘り下げる必要があるように思われる。例えば,形式名詞の後の「ニ」の脱落が多く観察された「こと」「とき」などは「ニ」の付加の有無について明らかにしなければ「ニ」の脱落と過剰使用を避けようもない。そこで,まず誤用コーパスから「Pとき(こと)Q」の後の「ニ」の脱落の誤用例を集めて脱落パターンをまとめ,また,現代日本語コーパスの中から「Pとき(こと)にQ」と「Pとき(こと)Q」のデータを収集し,「ニ」の付加がどのようなときに起こっているかを先行研究の主張を基に確認し,「ニ」の付加条件を提示する。 中国語の結果補語との対照については2021年に分離・分割を表す動詞が述語となる文において「ニ」と中国語の結果補語との対照をしてみたが,2022年に「ニ」の脱落と過剰使用を検討する際に,中国語からの干渉の有無も視野に入れようと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響により,当初の計画で予定していた出張や学会に行くことができず,次年度使用が生じることになった。これを利用して2022年度は経費を以下の面で使用する予定である。 ①研究のために,特に日本語学,中国語学、日中対照などの言語類に関係する書籍と図書を購入する予定がある。②コロナで中止した社会活動が回復されている今,研究会は会場で開催する場合,なるべく現場に行って研究会に参加する予定である。それに伴い,出張費が出るかと思われる。また国際学会についてオンラインで開催される場合は分科場の司会者として出ると同時に発表者でもあり,短時間で会場の移動が生じるのでパソコンを複数台(2台)またオンライン学会に必要な他の設備を用意することで費用が発生することが予想される。③データを分析する際に,パソコンやディスプレイモニターやデータを保存するハードディスクなどが必要になると思われる。③発表のレジュメや投稿論文について,校閲とネイティブチェックが必要になるので,アルバイト代を支出する項目として考えられる。④研究するためのその他の消耗品。
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