研究課題
本研究は近世国学者・義門の『山口栞』(天保7年〈1836〉刊)を主な研究対象とし、それまでの五音相通説をどのように整理し、活用論に援用しているか検証するものである。昨年度までCOVID-19の蔓延により遠隔地の資料調査が自由に行えなかったため、今年度は資料調査を重点的に行った。(1)『類聚雅俗言』『語辞林香記』『言葉のやちまた疑問』『活語余論』『友鏡底廼影』の閲覧・調査を行い、その翻刻や読解を行った。三木幸信『義門研究資料集成(上・中・下)』(風間書房、1966~1968)に収録されている資料であっても、今回の調査で諸本により異同が多く存在することが明らかになった。中でも『類聚雅俗言』は写本でしか伝わらないため、収録語彙の異同が目立つ。(2)本研究の対象である『山口栞』には当代語と古典語とを比較する記述がある。雅俗対訳語彙集である『類聚雅俗言』は、そうした研究の集大成に位置付けられるため、(1)で判明した異同を反映した語彙データベースを整備している。(3)義門の五音相通説における契沖の影響を考察したところ、さらにその背景に悉曇学(古典サンスクリット語学)の知見があることが明らかになった。五十音図の理論は悉曇学から持ち込まれた学理であるが、契沖および義門はそれにとどまらず、複合語の分類にも悉曇学の分類を援用している。国学者が和語の複合語を分析した例は、義門の他に、同時代の富樫広蔭があるが、悉曇学との関係について指摘した先行研究は管見の限り無いため、引き続き慎重に考察を進めている。
2: おおむね順調に進展している
昨年度行えなかった資料調査を集中的に行い、資料収集と読解に時間を割くことができた。
次年度は、前年度に引き続いて資料調査を行い、考察に必要な資料を収集・整理する。これに並行して、『山口栞』の内容分析に注力し、記述の精査と考察、論文化を進める。
COVID-19の蔓延のため学会がオンライン化するなど、今年度も旅費が計画通り使用できなかったため。次年度はこれまで見送ってきた資料調査を積極的に行う。
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鶴見大学紀要. 第1部, 日本語・日本文学編 = The bulletin of Tsurumi University. Pt. 1, Studies in Japanese language and literature
巻: 60 ページ: 左6~左32
10.24791/00001306