研究課題/領域番号 |
21K13021
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研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
山田 昇平 奈良大学, 文学部, 講師 (80758045)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 清音・濁音 / 中近世日本語 / キリシタン文献 / 口頭芸術文献 |
研究実績の概要 |
2023年度においては主として次の2点の成果が得られた。 ①【清濁の社会的背景に対する考察】、②【中世期日本語の濁音化現象に対する考察】 ①は特に歌語「わたつみ」には、歴史的に「ワタツミ」「ワダツミ」「ワタヅミ」「ワダヅミ」の4種の語形ヴァリエーションが存在することに注目し、中世から近現代にかけての種々の文献における用例を調査・整理した。その結果、これらの語形が社会的に異なる層において受容され、社会の変化を強く受ける形で優勢な語形が決定していたことを示した。これにより、日本語の清濁が社会的要因によって変化しうることを示した。 ②は漢語形態素「者(シャ)」に注目し、その濁音化の要因について考察した。その結果、「者」は現代語では、音環境(前部要素末における鼻音の有無)と語構成上の振る舞い(語根か接尾辞か)によって、濁音化の有無が決定するが、中世においては音環境のみ(前接要素末の鼻音の有無と、前節要素中に濁音が含まれるか)ことが明らかになった。そして、この結果は、漢語の濁音化条件の一般化や、日本語の音配列(濁音共存忌避)といった重要な問題に連続するものであることを示した。 上記の成果のうち、①は査読誌『訓点語と訓点資料』152に掲載された。また②は2024年第1回土曜ことばの会(2024年1月20日、オンライン開催)で発表し、現在論文として執筆を進めている。 このほか並行して、種々の文献調査を通して、中近世期における濁音や濁音化に関する記述の収集を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度終了段階においては、「『日葡辞書』の清濁素性に対する検証」を計画していた。しかし、当該のテーマの論文化を図った際、査読審査において方法論上の問題が指摘され、大幅な修正を余儀なくされた。その結果、本年度の成果①が派生した。このような査読審査過程に当初の予想より多くの時間がかかった。 また、前年度終了段階で予定していた「近世期の四つ仮名に関する言説に対する検証」については論文原稿が完成し、査読誌に投稿したものの、投稿誌の都合から本年度中に審査結果を得られなかった。 一方で、前年度予定していなかった本年度成果②が新規テーマとして得られるなど、やや遅れはあるものの、停滞しているわけではない。
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今後の研究の推進方策 |
後の推進方策としては、まず本年度の発表成果②の論文化を行う。その上で、まず確実な成果を得るために、本年度成果を派生させる形で研究を進める。具体的には、上記の成果①に類似する歌語の清濁について別の語を対象に考察を行う。また、②の成果のうちに含まれる濁音の音配列の問題について、より詳細な考察を進める。 このほか、従来より進めている文献資料に対する調査・考察を基盤とし、そこから中近世期の清濁に関する問題を見出し、検証していく。具体的にはキリシタン文献・歌学文献・謡曲伝書を中心に濁音に関する記述を調査し、考察を行う。また、中世期の濁音に関する現象面についても、特に撥音のような鼻音との関係に注目しつつ、考察を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
以下の理由による旅費への使用が減ったため。 ・参加予定の学会にオンライン開催が継続されたものが多かった ・文献資料の電子画像の公開が進み、直接閲覧が必要なものが少なくなった(また、公開画像のためデータ保存の必要性も減じ、保存機器を必要としなかった) これらに対して、文献資料に対する詳細な調査が進んだ段階で実見のための書誌調査を計画する。そのデータ保存のための機器を選定する。また、対面での学会開催が増加傾向にあるため、旅費の必要性が生じると予想される。
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