研究課題/領域番号 |
21K13031
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研究機関 | 熊本学園大学 |
研究代表者 |
矢冨 弘 熊本学園大学, 外国語学部, 講師 (50867843)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 英語史 / 社会言語学 / 文献学 / コーパス |
研究実績の概要 |
2021年度は研究課題の1年目として、研究の基盤となるコーパスの整備と、それを用いたパイロットスタディを行った。これまでに作成したThe Corpus of Sermons in Early Modern Englandを拡張するために、様々な宗教家が執筆した説教文を集めて調査を進めた。年代や宗教的アイデンティティなどの要素を総合的に考慮したうえで、バランスがとれたコーパスを作成するための知見が得られた。 具体的な研究成果としては大きく分けて以下の2点がある。John Donneの説教文におけるthouとyouの使用をより詳細に分析し、語用論的に解釈をした。初期近代期の宗教家が説教文の中で、thouとyouをいかに使い分けていたのかに対する考察をすることができた。さらに、thouの使用はたとえ聴衆が自分より上の立場の人間であっても可能であったことを示すことができた。この研究結果は英語史研究会の第30回大会のシンポジウムで発表し、論文を執筆し提出した。これは2022年度に論文集の一部として出版される予定である。 これまでに、thouや三人称単数の-th/s語尾、助動詞のdoなどの使用を社会言語学的観点から分析してきた。2021年度はこれらの研究結果を総合的に考察し、宗教ジャンルであっても、言語使用者を多面的に捉えると先進的・保守的な言語使用者が判別できること、そしてその区分は言語使用者の宗教的アイデンティティと関連していることを考察した。この内容は、国際学会(21st International Conference on English Historical Linguistics)で発表を行った。 その他の研究実績として、英語史研究会第31回大会でのシンポジウムで、研究課題のこれまでの研究成果が、歴史社会言語学的研究という観点から英語教育にも貢献できることを議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コーパス(The Corpus of Sermons in Early Modern England)の改訂はまだ完成していないが、多様なテキストに対して複数の視点からパイロットスタディを行ったことから多くの知見を得ることができた。そのためコーパスの完成は間近である。 本研究課題ではマクロとミクロのアプローチを併用するが、それぞれの視点から研究を進め、2021年度には3件の学会発表を行い、3つの論文を執筆し提出することができた。論文はまだ未刊であるが、このように研究成果を積み上げていくことで、最終目標とする単著の出版へと繋がると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2年目となる2022年度には、まずコーパス(The Corpus of Sermons in Early Modern England)の改訂を完成させ、研究の方法論を確立させる必要がある。 同時に、マクロとミクロ的視点からの研究をこれまでどおり継続し、学会発表と論文執筆という形で研究成果を発表し続ける。具体的には、マクロの視点からは、個人の言語使用者が先進的であるか保守的であるかについて、複数の言語現象の使用から判別を行う際に、統計的手法を用いる必要があるため、関連領域の情報収集をしながらパイロットスタディを積み重ねていき、本研究課題に適した手法を確立させていきたい。 ミクロの視点からは、個人言語の総合的な記述を目指し、John Donneの残した多岐にわたるジャンル(説教文、詩、手紙)のテキストを分析し比較を行う。このようなアプローチで、言語使用者が言語変数に対してどのようなsocial meaning「社会的意味」があると捉えていたのか、またそのような価値観は一般的なものと差異があるのかどうかを明らかにすることができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
図書の購入を予定していたが、年度末にかかる時期になってしまったため、取り寄せに時間がかかることを想定し、次年度に購入することとした。旅費として使用するはずであった経費は、COVID-19の感染拡大の影響で学会がオンライン開催となったため、旅費としては使用できなかった。この経費はオンライン学会での発表を円滑に行うための物品購入に充当した。
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