• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2021 年度 実施状況報告書

世界史の中の福岡・久留米俘虜収容所:ドイツ兵をめぐるグローカル・ヒストリーの構築

研究課題

研究課題/領域番号 21K13086
研究機関九州大学

研究代表者

今井 宏昌  九州大学, 人文科学研究院, 講師 (00790669)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2026-03-31
キーワードドイツ兵俘虜収容所 / 軍事史 / グローカル・ヒストリー / 日独関係史 / 福岡 / 久留米 / 捕虜 / 第一次世界大戦
研究実績の概要

本研究の目的は、第一次世界大戦(1914-1918)からその直後にかけて、福岡県福岡市と久留米市に設立されたドイツ兵俘虜収容所を、グローバル・ヒストリーとローカル・ヒストリーの接合を目指す「グローカル・ヒストリー」の観点から再考することにある。具体的には、ドイツ兵俘虜を「越境者」と位置づけることで、①彼らのドイツ本国や東アジアでの経験、ならびにそれらにもとづくドイツ・ナショナリズムや「文明国」意識が収容所内でどのように発揮されたか、②その動きに日本軍や地域社会がどのように対応したか、③そうした過程で蓄積された収容所での経験が、解放後のドイツ兵や地域社会にどのような影響をもたらしたのか、を明らかにする。
2021年度は、申請時の想定どおり新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的拡大によって渡独が不可能となったため、基本的に日本国内での史料の調査・収集をおこなった。具体的には、国立公文書館デジタルアーカイブ(https://www.digital.archives.go.jp/)や、国立国会図書館デジタルコレクション(https://dl.ndl.go.jp/)、さらには日本の古本屋(https://www.kosho.or.jp/)などの各種データベースを駆使し、戦前の日独関係史料の調査・収集をおこなった。
また、チンタオ・ドイツ兵俘虜研究会(http://koki.o.oo7.jp/tsingtau.html)を主催する小阪清行氏や、チンタオ・歴史的伝記プロジェクト(http://www.tsingtau.info/)を主催するハンス=ヨアヒム・シュミット氏(Hans-Joachim Schmidt)との交流で、久留米俘虜収容所をめぐる事実関係や史料で新たな発見があった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

2021年8月末にハンス=ヨアヒム・シュミット氏から問い合わせがあり、久留米収容所で通訳として活動していた「青山」なる人物に調査をおこなった結果、各種事実が明らかとなった。1)通訳の青山とは、青山延敏(あおやま・のぶとし, 1888-1974)で、筆名は郊汀。ドイツ語では延敏を音読みした"Embin Aoyama”の名で出版をおこなった。2)青山の生年時の名前は、森田敏雄(もりた・としお)で、実父は「豚博士」と呼ばれた養豚のスペシャリスト、森田龍之助(もりた・りゅうのすけ, -1917)、実母は水戸藩士・儒学者・史学者である青山延寿の娘にして、東京女子師範学校(お茶の水女子大学の前身)の開校時の首席であった青山千世(あおやま・ちせ, 1857-1947)であった。3)実姉の森田松栄(もりた・まつえ, 1886-1933)は翻訳家、実妹の森田菊栄(もりた・きくえ, 1890-1980)は社会主義者の山川均と結婚し、山川菊栄を名乗る。4)青山は五高の独文科卒業後、東大独文科に進学。ドイツ留学後、北大、広島大、専修大に勤務した。また1916(大正5)年6月22日に陸軍通訳に任官された。5)さらに調査を進めたところ、『日本及日本人』686号(1916年8月15日)に「郊汀生」の筆名で「久留米の獨俘虜」という記事が執筆されていることが判明。内容を検討したところ、青山が書いたもので間違いないことがわかった。文中では、エルンスト・アンデルス(Ernst Anders)やエミール・スクリーバ(Emil Scriba)といった俘虜とも親交があったことが伺え、久留米俘虜収容所における日本人のドイツ語通訳とドイツ兵俘虜との交流の一端を解明することができた。
上記の成果は、小阪清行氏やハンス=ヨアヒム・シュミット氏を通じ、日独双方の研究者ネットワークにおいて共有された。

今後の研究の推進方策

本研究を遂行するうえで重要な史料としては、福岡・久留米俘虜収容所に関する日本軍内部の各種通達・報告や、収容所の様子を報じた地元紙に加え、ドイツ兵俘虜の主観を反映したエゴ・ドキュメントが重要となる。ドイツ兵俘虜については、これまでも報告書や回顧録がいくつか邦訳されてきたが、より広範な俘虜の視点を踏まえた考察をおこなうためには、日独双方における新たな史料調査が不可欠である。
とりわけ、福岡・久留米に収容された俘虜がドイツ本国に書き送った手紙について、ドイツ連邦文書館所蔵の(Bundesarchiv)の俘虜関係文書(R 67)、帝国海軍省関係文書(RM 3)に所蔵が確認されている。加えてドイツ本国で個人宅所蔵のドイツ兵俘虜史料の調査をおこなっているハイデルベルク大学のメルバー・琢磨博士との連携のもと、新史料の発掘と情報基盤を整備する必要がある。
2022年度は、ドイツ現地での史料調査と同時に、アジア歴史資料センター(JACAR)やドイツデジタル図書館(DDB)、そしてハイデルベルク大学で目下構築中のデジタル青島文書館といったデジタルアーカイブ上の俘虜史料の情報をまとめ、申請者の所属する九州大学西洋史学講座のHP上に史料データベースを構築・公開することによって、日独双方に散在した俘虜史料の網羅的・体系的な整理を目指す。

次年度使用額が生じた理由

2021年度は東京と徳島への出張を予定していたが、コロナ禍の影響で断念せざるを得なかった。次年度使用額は2022年度における国内出張で利用予定である。

  • 研究成果

    (12件)

すべて 2022 2021 その他

すべて 雑誌論文 (3件) (うちオープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) 図書 (2件) 備考 (2件)

  • [雑誌論文] 「遠隔がつなぐ高大連携 ―「コロナ禍」におけるグローカルな歴史実践をめざして―2022

    • 著者名/発表者名
      今井宏昌
    • 雑誌名

      資料と公共性 ―2021年度研究成果年次報告書―

      巻: なし ページ: 14-20

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] 書評 長谷川貴彦編『エゴ・ドキュメントの歴史学』2021

    • 著者名/発表者名
      今井宏昌
    • 雑誌名

      九州歴史科学

      巻: 49 ページ: 27-35

  • [雑誌論文] はじめに ―趣旨説明―(特集 熊野直樹著『麻薬の世紀:ドイツと東アジア 1898-1950』をめぐって)2021

    • 著者名/発表者名
      今井宏昌
    • 雑誌名

      九州歴史科学

      巻: 49 ページ: 54-56

  • [学会発表] 趣旨説明2022

    • 著者名/発表者名
      今井宏昌
    • 学会等名
      第31回西日本ドイツ現代史学会・小シンポジウム「ドイツ近現代史のひらき方 ―「一国史」の枠を超えて― 」 2022年3月27日
  • [学会発表] 遠隔がつなぐ高大連携 ―コロナ禍におけるグローカルな歴史実践をめざして―2021

    • 著者名/発表者名
      今井宏昌
    • 学会等名
      九州西洋史学会2021年度春季大会/九州歴史科学研究会4月例会・シンポジウム「遠隔から考え直す歴史教育実践」
  • [学会発表] 持続可能な研究環境のために ―歴史学・西洋史学からの報告―2021

    • 著者名/発表者名
      今井宏昌
    • 学会等名
      日本版AAAS設立準備委員会研究環境改善WG人文社会科学系ユニット勉強会
  • [学会発表] 「コロナ禍」の福岡における歴史教師養成 ―九州大学西洋史学研究室の試み―2021

    • 著者名/発表者名
      今井宏昌
    • 学会等名
      高大連携歴史教育研究会・第7回大会 パネル②「大学において歴史の教師をどう養成するか:現状と課題」
  • [学会発表] 趣旨説明2021

    • 著者名/発表者名
      今井宏昌
    • 学会等名
      九州歴史科学研究会10月例会・合評会:熊野直樹『麻薬の世紀:ドイツと東アジア 一八九八-一九五〇』(東京大学出版会、2020年)
  • [図書] 英霊 ―世界大戦の記憶の再構築―2022

    • 著者名/発表者名
      ジョージ・L・モッセ(宮武実知子訳、今井宏昌解説)
    • 総ページ数
      416
    • 出版者
      筑摩書房
    • ISBN
      4480510788
  • [図書] 第一次世界大戦と民間人 ―「武器を持たない兵士」の出現と戦後社会への影響―2022

    • 著者名/発表者名
      鍋谷郁太郎、柳原伸洋、梅原秀元、川手圭一、勝田由美、池田嘉郎、姉川雄大、今井宏昌、黒沢文貴、剣持久木
    • 総ページ数
      355
    • 出版者
      錦正社
    • ISBN
      4764603543
  • [備考] 今井 宏昌 (いまい ひろまさ) - 九州大学

    • URL

      http://hyoka.ofc.kyushu-u.ac.jp/search/details/K006572/index.html

  • [備考] 今井宏昌 - 研究者 - researchmap

    • URL

      https://researchmap.jp/heero108

URL: 

公開日: 2022-12-28  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi