研究課題/領域番号 |
21K13090
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
林 晃弘 東京大学, 史料編纂所, 准教授 (10719272)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 寺社政策 / 寺社奉行 / 本山・江戸触頭 / 寺院史料 / 藩政史料 / 真宗統制 / 熊本藩 / 朱印寺社領 |
研究実績の概要 |
2023年度の実績について、(1)幕府と仏教教団の間における組織的関係の形成、(2)藩の寺院行政を組み込んだ分析の2つの面から概要を示すと以下のとおりである。 (1)については、研究成果の取りまとめを進めた。まず、「近世的な政教関係の形成」(上野大輔・小林准士編『日本近世史を見通す6宗教・思想・文化』所収)において、豊臣秀吉政権期から徳川家綱政権期までの約80年の期間を対象に、政治権力の仏法興隆を意図する政策の動向と、仏教教団との組織的関係の形成の過程を概括的に論じた。ここでは本課題の経費を用いて史料調査を行った薬師寺や泉涌寺の事例を用いた。 また、幕府と寺社の関係の基礎となる朱印寺社領をめぐる論点について、西尾市岩瀬文庫にて曹洞宗可睡斎配下寺院に宛てた徳川将軍の判物・朱黒印状の写を調査し、一部を史料紹介としてまとめた。さらに、滋賀県大津市の天台宗寺院である聖衆来迎寺の史料を用い、同寺が兼帯した律宗の阿弥陀寺の近世中後期の例外的な朱印改めのあり方を明らかにし、近世の宗派をまたぐ兼帯の実態と、それに対する幕府・個別領主の認識を検討した。 (2)については、前年度より取り組んできた熊本藩の真宗政策に関する研究を論文「近世前期における熊本藩の真宗統制」として公表した。加藤氏の治世に、同藩領内の真宗に対して西派への転派を命じたことを初めて史料から明らかにし、その上で本山における国取次の存在、藩領内の触頭的寺院の設定とその統制のあり方を示した。熊本藩の宗教政策に関しては、シンポジウム「近世初期における「御国」と「公儀」」での報告のなかで、寛永15年9月13日付のキリシタン制札をめぐる動向に言及し、幕府の禁制政策と藩の支配の関係に迫った。この他、北陸中世近世移行期研究会編『地域統合の多様と複合』の書評において、比較対象である越前・加賀・能登・越中における寺社政策を扱う研究に論評を加えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、前年度までの史料調査の成果をもとに、学術雑誌に論文2件、分担執筆の論集に論文1件、史料紹介1件、書評1件をまとめた。この他、本課題の研究成果を含む口頭報告1件を行った。これらのうち、近世前期の政教関係の形成を論じた研究と、熊本藩の真宗統制を論じた研究は、本課題の中心的な成果になるものである。また、当時の宗教政策において重要な課題であったキリシタン禁制をめぐる問題にも言及できた。 新型コロナウイルス感染症の影響のため、予定していた一部の出張を伴う調査を見送らざるを得なかったが、写真帳等の複製を用いることで必要な研究を進めることができた。仏教教団側の史料について、本経費では薬師寺・泉涌寺の史料調査を行った。藩政史料については、熊本藩細川家に関する史料の調査を、熊本大学附属図書館にて実施したほか、熊本市歴史文書資料室・東京大学史料編纂所の複製を利用した。また、山口県文書館において萩藩毛利家と曹洞宗関係の史料調査を行った。以上の調査・研究の成果により、論文等をまとめる見通しが得られた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2024年度には、藩政史料を用いた分析についてさらに研究を進め、成果を取りまとめる予定である。ここで予定している研究の成果を加えることで、2023年度までの成果と合わせて、近世前期の幕藩権力の諸政策が仏教教団組織にいかなる影響をもたらし、それがどのような問題の原因となったのか、そしてここで生じた問題が幕府や藩との関係のなかでどのように解決されたのかを明らかにする。これにより藩権力と藩領内の寺院を含み込んだ近世前期の政教関係像を提示しうると考えている。 具体的にはこれまで調査を行ってきた熊本藩・萩藩の史料を用いて、学術論文や学会報告として成果をまとめる予定である。また、これまでの調査で撮影した史料の画像のうち、許可を得たものに関しては、所属先である東京大学史料編纂所の図書室にて、研究を目的とする利用者を対象に公開を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により、予定していた出張1件を見送ったため。 見送った熊本での史料調査を2024年度に実施する。
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