2023年度は研究計画に沿って文献・史資料等の収集を継続するとともに、収集済の史資料の整理・分析に取り組み、二十世紀研究所の個性と役割、意義を明らかにすることに努めた。この過程では、研究所の主要メンバーであり理解者であった大河内一男、林健太郎、丸山眞男、福田恆存、久野収にとくに注目し、彼らの残した著述から研究所へのそれぞれの思いや関係の遠近等を析出した。また、これまで注目されてこなかった、研究所の啓発事業に参加した人びとの反応にも目を向ける必要を認め、啓発事業の開催地における史資料収集の事前調査にも取り組んだ。 今年度の調査以前に、2021年度は事前入手済史資料の翻刻および新資料の捜出等をとおして研究所の体制や事業内容、また研究所長・清水幾太郎の戦後社会学と研究所での事業との間の関連等、これまで知られてこなかった新たな知見を明らかにできた。 また、2022年度は研究所の研究員らが残した手記・回想等の分析をとおして、彼らが研究所に積極的に関与した動機や社会背景等を明らかにした。前年度の調査で明らかにした資金面や体制面の充実のみならず、研究員相互がデモクラシーの作法に則った議論や研究に取り組んだことが研究所全体の知的水準や魅力の向上につながったという人材面での充実も、当時の他の民間啓発活動を一頭抜きんでた要因と考えられることを示した。 研究期間全体をとおして、従来、清水らごく一部のメンバーが残した手記や回想に依存しがちだった研究所の実態と参画した知識人たちの多くの協働の様相をめぐる多くの知見を、新たに捜出した史資料も含めた分析をとおしてより客観的な追加することできた。 なお、研究期間中に公表した本研究課題に関する研究成果は論文3本、書評1本、学会報告3回である。このほか2024年度中に論文1本の投稿予定と学会報告1回の予定がある。また成果全体を取りまとめた文献を執筆中である。
|