研究課題/領域番号 |
21K13100
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
本庄 総子 京都府立大学, 文学部, 准教授 (40823696)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 疫病 / 国司 |
研究実績の概要 |
(1)都鄙間交通の特徴 概要:日本古代における都鄙間交通の時期的消長を解明する一手段として国司の移動に注目し、その移動が八世紀後葉までは異常な程の頻度であった(年間の半分程度を移動に費やしている)ことを解明するとともに、その目まぐるしい移動が八世紀後葉を画期として鈍化していく様子から、律令国家の地方支配に質的転換が訪れていることを指摘した。 意義:日本古代において疫病を頻発させ得るだけの人口密集を保っていた地域としては、首都である京が注目される。この場で蔓延した疫病が地方に伝播し、全国的な疫病を発生させることもしばしばであった。当時は、疫病伝播の構造上、都鄙間交通が現代以上に重要な役割を担っていたといえる。疫病研究史上、都鄙間交通の中で最も注目されてきたのは、租税を京まで運搬する運脚たちの移動であるが、その時期的消長を確認することは史料上の制約により困難である。そこで、史料の残存状況が比較的良好な国司の移動に注目した。日本古代の疫病は、九世紀初頭に崩壊的と評価しても良いほどの頻発期に突入する。今回の調査結果は、律令制的な都鄙間交通の鈍化以降にむしろ疫病の頻発が始まるという一見矛盾する結果が得られた。この事実は、都鄙間交通の消長だけでは疫病の消長を説明できないこと、疫病復興策を含めた律令国家の制度総体から分析していく必要があることを示している。 (2)疫病の語彙:日本古代における疫病の語彙を収集し、現時点での予備的考察を行った。 (3)甚大な被害を及ぼす疫病の特徴:放送大学BSキャンパス(10月2日)において、研究成果の社会還元に努めた。八世紀の天平の疫病と一〇世紀の正暦の疫病の共通点を指摘し、こうした特殊な疫病は発生頻度こそ低いが甚大な被害を及ぼすため、疫病の対策は百年先を見据えた対策を要すると指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に予定していた国司を中心とした都鄙間交通の時期的変化については論文化まで完了している。初年度から第二年度に予定している籍帳制度と疫死についての考察は現在論文化作業中であり、また第二年度に予定していた古辞書よりみた疫病観については若干の予備的考察ではあるが初年度中に口頭発表を行った。新型コロナ流行の影響により、史料調査の一部は第二年度に延期したものの、想定の範囲内であり、全体としては順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
(1)籍帳制度と疫死 「研究実績の概要」(1)で述べたとおり、疫病の消長は、疫病復興策を含めた律令国家の制度総体から分析していく必要がある。一つの手懸かりとして、日本古代の人身把握の制度である籍帳制度と疫死に着目していきたい。律令制の建前上、地方官たちは任地の人口が増加するように方策を廻らすことを義務づけられており、人口の増減が勤務評定に直結していた。こうした制度的枠組みは、疫病からの復興において有利に働いたものと想定できる。ところが、籍帳制度の形骸化とともに、一定の人口減を「疫死」として許容し、疫病による人口減は制度的に折り込み済みのものとして処理されるようになっていく。このような制度的措置は、疫病復興の動機を減退させる因子として注目されるため、その発生と定着の構造を明らかにしていきたい。 (2)疫病の語彙 初年度の予備的考察で、当該課題は対象とする時代と空間を広げて分析していく必要性が高いことが判明しているため、今後は平安時代を中心に史料の収集と分析を行っていくとともに中国史料の調査も重ねていく。中国史料の調査に当たっては、各種データベースの活用も視野に入れたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ流行の影響として、史料調査旅行及び史料調査アルバイト依頼の確保に支障が生じている。次年度以降、状勢を確認しつつ執行の見込み。
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