最終年度は主に疫病と古代社会の産業構造との連関、特に農業及び農業政策との相関性に着目して研究を進めた。疫病は飢饉との相関性が高い災害であり、農業対策は疫病対策としても注目される。飢饉対策として始まった田地拡大策と、これが疫病及び飢饉という災害に対して与えた影響を解明した。また、中国の疫病については、従来その発生時期や場所についての情報は収集されていたが、その発生動態にかかる分析は不十分であったため、その点に着目した収集を改めて実施し、疫病の比較史の基礎作業とした。 研究期間全体を通じて、日本古代における疫病の発生機序について構造的に解明した。この災害は、日本古代における国制との関連性も高く、自然に発生するというよりは、人間社会の変化に忠実な動きをみせている。疫病については、従来、発生とその結果に主たる関心が向けられてきたが、本研究ではその原因と結果双方に着目することで、疫病の構造的問題を明確化することができた。また、疫病については環境史的なアプローチが近年盛んに実施されている。こうしたアプローチはもちろん有効であるが、制度史的アプローチに特化した方法の有効性を提示できた点も本研究の特色といえる。また、疫病の比較史構築に向けて、疫病分析の基準を項目立てて体系的に示した点も本研究の成果である。この点に関しては、日本の中世以降の疫病や日本古代と同時代の中国の疫病に注目し、史料上の照合にも着手した。
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