2023年度は、「文士と武士―鎌倉幕府評定衆家の軍事―」(倉本一宏編『貴族とは何か、武士とは何か』思文閣出版、2024年2月)を公表することができた。本稿は、室町幕府官僚制の成立・展開過程を追究するという目的のうち、その前史となる鎌倉幕府における評定衆家や奉行人氏族を対象とし、その軍事技術の習得、それに基づく軍事活動の展開過程を検討したものである。鎌倉初期に京都より下ってきた文士(文官)が、武家社会の中で劣位に置かれており、武芸の習得や大番役や篝屋役の勤仕、実戦を経て武士化し、鎌倉末期には家格の高さと相まって、一般御家人を指揮する存在になったこと、そして室町期の内裏門警固役負担の前提となったことを明らかにした。 本研究においては、室町幕府奉行人氏族の個別研究(飯尾氏・松田氏)により、奉行人が将軍権力の基盤であると同時に、管領・守護家からも庇護をうけ権力基盤となったことや、彼らの家が共同で幕府の公的な文書管理を担う存在となったこと、そうした家では漢籍などの典籍も多数が所蔵され学問に供されていたことなど、従来の幕府官僚制では見えてこなかった多面的な活動が明らかにされた。 また研究計画外ではあるが、田中誠「ドイツで/における日本中世史研究」(黄霄龍・堀川康史編『海外の日本中世史研究 アジア遊学289』勉誠社、2023年10月)を発表した。本稿では申請者の過去のドイツ研究滞在の経験をまとめたもので、ドイツにおける研究活動の実際や研究環境、海外の研究者との交流などもまとめることができた。
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