研究課題/領域番号 |
21K13108
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研究機関 | 四国大学 |
研究代表者 |
駒井 匠 四国大学, 文学部, 助教 (30794945)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 天皇菩薩観 / 神仏関係 |
研究実績の概要 |
今年度は、9世紀の得度制度に関わる史料の検討から、天皇と仏教の関係について、9世紀の特質を導き出すことができた。 『日本三代実録』貞観元年(859)8月28日辛亥条は、延暦寺宝幢院年分度者設置を申請するものであるが、その中で、清和天皇は菩薩が垂迹した神と見なされていた。天皇菩薩たる清和は、現世と来世に安穏をもたらす理想的国王と位置づけられていた。天皇を菩薩と見なすこと自体は、政治史と関わりながら、8世紀から見られる。しかし8世紀末から9世紀前半には、仏教界においては天皇を菩薩と見なす観念が存在し続けていたが、政治史との関係から、天皇周辺に受容されることはなかった。これが9世紀半ばに再浮上してきたのは、9世紀半ばの政治史とも関わっていた。すなわち、当時においては、皇位継承のあり方が変化し、史上初めて幼帝が登場した時期であり、天皇権威に揺らぎが見える時期であった。天皇を菩薩とみなす観念は、天皇権威を支える論理として注目されたと考えられる。 9世紀後半には神祇祭祀と天皇の関係が重視される等の背景があり、天皇を菩薩と見なす観念は再び表立って見えなくなる。しかし、全く消滅してしまったわけではなく、貴族層の中に温存され続けたと考えられる。 以上の内容は、2021年度日本史研究会大会で報告し、「8・9世紀の天皇における仏教的国王観の受容と展開―天皇菩薩観を中心に―」(『日本史研究』第714号、2022年)として発表できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
得度制度関係史料を検討することから、天皇がどのようにして護国の役割を果たすのか、その仕組みについての理解を深めることができた。制度・政策そのものの展開を検討するには不十分な点があり、当初の計画とはやや異なるが、9世紀の制度・政策に関わる史料の中で、天皇がどのような存在として現れてくるのかを明らかにすることができた。その成果は、2021年度日本史研究会大会にて報告することができた。一方で、中国との比較には課題を残している。
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今後の研究の推進方策 |
研究の進捗により、以下の2点への目配りが必要であると考えるに至った。 ①護国の仕組みを検討する上で、仏教のみならず、神信仰を視野に入れて検討すること。 ②政治史との関係も十分に踏まえる必要があること。 また中国との比較の成果を十分に発信できていないので、この点を重点的に進めていきたい。 最終年度は9世紀前半、とりわけ最澄の護国思想に焦点を絞り、彼がどのような仕組みで護国を果たそうとしていたのか、またその仕組みを東アジアの中でどのように位置づけることが可能かを検討していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品購入に多くの費用と費やし、また研究成果を広く配付したものの、わずかに残りが発生した。残額は、前年度の課題として残されている中国仏教史を研究するための書籍購入に使用したい。
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備考 |
四国大学学際融合研究所言語文化研究部門第1回研究例会において「9世紀の天皇と仏教」と題して発表した。
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