研究課題/領域番号 |
21K13115
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
板橋 暁子 東京大学, 東洋文化研究所, 助教 (30837290)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 魏晋 / 南北朝 / 隋唐 / 妻妾 / 以妾爲妻 / 以妻爲妾 / 貞節 |
研究実績の概要 |
本研究における今年度の主要実績は、まず、『東アジアの家族とセクシュアリティ:規範と逸脱』(小浜正子・板橋暁子編、京都大学学術出版会、2022年2月)の刊行である。同書は古代から近現代に至るまでの中国および現代台湾・韓国・アジア各地を対象として、史学・文学・社会学など各分野の研究者15名が寄稿した論文集であり、申請者は編者の一人として同書全体の編集作業に参与し、全編の校正にも携わった(同書の刊行は申請者が研究分担者を務める基盤研究B「東アジア各国の「姓・生・性」の変容の比較史的研究:「東アジアの奇跡」の裏側で」(研究代表者:小浜正子)の成果である)。 また同書には申請者自身も著者の一人として論文「魏晋南北朝時代の「以妾爲妻」「以妻爲妾」について」を寄稿した。同論文は、礼法上における妻と妾の地位には尊卑の序列が明確に設けられていることを前提として、魏晋時代そして南北朝時代において妻と妾をめぐる規範と実態はいかなるものであったかを論じたものである。歴代皇帝が「以妾爲妻」をしばしば実践した三国魏とは対照的に、両晋では初代皇帝の定めにより妻妾の別の厳守が求められ、その風潮は南朝社会にも継承されたが、非漢人を支配層とする北朝では当初は妻と妾の身分に大きな差異はなく、皇族レベルでも「以妾爲妻」「以妻爲妾」がしばしば実践された。本論文ではまた、律文の検討を通じて唐代への展望を示した。 さらに研究報告として、2022年1月開催のGender and Medieval Studies Conference 2022にて「Revenge and Chastity: Women Pretending for Resistance in Medieval China」と題した英語報告を行い、貞節を犠牲にしても復讐を敢行した魏晋南北朝隋唐時代の女性の記録および彼女たちに対する士人側の評価を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
魏晋南北朝時代の婚姻実践の一形態として妻と妾の嫁娶および妻と妾の家庭内序列や社会的位置づけを明らかにした。その過程で、規範としての礼法に定められた妻妾の尊卑は現実の魏晋南北朝社会においては必ずしも遵守されたわけではなく、時代や地域による差異が大きく、実態は多様であったことを確認した。 また、伝統中国社会において一貫して絶対視されていたと考えられてきた女性の貞節について、魏晋南北朝隋唐時代の事例(文献は宋代初期のものを含む)から、父母の復讐など一定の目的のためであれば女性が貞節を犠牲にして雌伏し大義を敢行することが賞賛の対象となりうることを明らかにした。すなわち、元明清期と異なり、この時期は士人層(文献の編纂者・記録者)においてさえ、女性の美質として貞節に殉じることのみが重視されていたわけではないことを指摘し、女性と婚姻をめぐる社会通念の多層性を提示した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果を受けて、今後は魏晋南北朝時代と比較しつつ隋唐時代における婚姻をめぐる規範と実践・実態の関係を解明していく。とりわけ、隋唐に先立つ北朝の支配層たる非漢人(鮮卑)においてしばしば実践されたレヴィレート婚のような儒教的価値観と相容れない婚姻が、律令などの基底にある思想を通じて礼制国家を標榜する唐およびその前身である隋ではどのように実践されどのような社会的位置づけにあったのか、といった問題を具体的に検討してゆく。
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