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2021 年度 実施状況報告書

古代エジプトの「二柱のマアト」の実体解明-「死者の書」を手掛かりにして-

研究課題

研究課題/領域番号 21K13117
研究機関金沢大学

研究代表者

肥後 時尚  金沢大学, 新学術創成研究機構, 研究協力員 (50882289)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2025-03-31
キーワード「二柱のマアト」 / 『死者の書』 / 「死者の裁判」 / 冥界
研究実績の概要

本年度の研究では、古代エジプト史の後半期における「二柱のマアト」の実態解明のための研究の出発点として、古代エジプト新王国時代第18王朝に利用された『死者の書』の内容から図像として登場する最初期の「二柱のマアト」の実体を考察した。ボン大学が運営する『死者の書』のデータベース(Totenbuchprojekt)を活用し、第18王朝時代に制作された「死者の書」の写本を悉皆的に調査し、「二柱のマアト」の図像が描写された史料を抽出した。その後、それぞれの写本に描写された「二柱のマアト」の記述と図像を個別に分析し、制作時期と制作地をはじめとする史料の情報と組み合わせて考察することで、古代エジプト新王国時代第18王朝における「二柱のマアト」の姿を明確化した。「二柱のマアト」は、同時代の『死者の書』と『アムドゥアトの書』において初めて二柱の女神の図像で登場する。本年度の研究により、第18王朝時代における「二柱のマアト」が多様な姿で描写されることを指摘し、同時代において新たに表出した冥界観における「二柱のマアト」の具体的な役割が依然として変化の過程にある可能性を提示した。
また、「二柱のマアト」の理解を目的として「二柱のマアト」が携わる「死者の裁判」の場面を対象とする文献学・図像学的研究にも着手した。「死者の裁判」に登場する42柱の冥界の裁判官の出自に注目し、第18王朝における冥界の裁判官の共通点と相違点を明らかにした。さらに、これらの研究成果をを国内外の学会において発表し、専門家と進展のための議論を交わした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度の研究では、当初の研究計画通り、約200種類の呪文からなる『死者の書』の中から「二柱のマアト」が記述される呪文を抽出し、記述の頻度が高い呪文第125章の分析に着手することができた。第18王朝の『死者の書』の写本の比較を通して、長大な文章である第125章の中でも特に所謂「無罪の宣言」の場面において「二柱のマアト」の役割が強調される点を発見した。そして、同場面において冥界の裁判官を監督する神々としての「二柱のマアト」の姿を明確化した。第18王朝時代の写本上の「無罪の宣言」に描写された「二柱のマアト」は全体として不定の姿でありながらも意図的に強調して描写される。このような多様な姿で強調された図像の比較・検討を通して、同時代における「二柱のマアト」の姿や冥界における役割が形成の過程にあることを示した。第18王朝は、古代エジプト人の冥界観の転換期であり、「二柱のマアト」もこの潮流の中で新たに役割が与えられた神々であった可能性が指摘される。
これらの研究成果を国内外における学会で発表することで、同時代における「二柱のマアト」の位置づけをめぐる議論を様々な専門家を交えて行い、研究の報告性を確認することができた。
また、「二柱のマアト」が重要な役割を果たす「無罪の宣言」の場面の理解に関わる新たな研究の課題を発見した。同場面に登場する42柱の冥界の裁判官の多くは、その姿や出自が曖昧な神々であり、異なる時代の『死者の書』の写本上の記述・図像の比較・検討を通してその姿を明確化できるという展望を示した。
上記の内容から、本研究における「二柱のマアト」及び『死者の書』の研究は概ね順調に進展していると判断できる。

今後の研究の推進方策

『死者の書』第125章を除く複数の呪文にも「二柱のマアト」の記述及び図像が確認されるが、事例数が限定的であることを確認したため、本年度の研究では第125章に焦点をおいて分析を進めた。次年度以降の研究では、呪文第1章、第15章A、第142章、第168章、第186章、第194章上の「二柱のマアト」の記述・図像の詳細な分析を行い、『死者の書』における「二柱のマアト」の位置づけを明確化する予定である。
また、本年度の研究は1500年にわたって利用された「死者の書」の最初期の段階である第18王朝時代の写本の分析に専心してきた。続く新王国時代第19王朝・第20王朝に加え、第3中間期以降にも『死者の書』は数多く利用されている。第18王朝時代の写本の分析によって明らかにされた冥界における「二柱のマアト」の役割は、時代を経て変化することが予想される。古代エジプト史の後半における「二柱のマアト」の実体解明するため、次年度以降の研究では、これらの時代の写本を分析対象に加え、「二柱のマアト」の変遷を辿る予定である。個別の『死者の書』の写本の記述・図像分析の継続により、「二柱のマアト」の理解につながる事例を段階的に蓄積し、古代エジプト史における「二柱のマアト」の理解に寄与することが期待される。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件)

  • [雑誌論文] <論説>古代エジプトの「二柱のマアト」 --概念の変遷とその実体をめぐって--2021

    • 著者名/発表者名
      肥後 時尚
    • 雑誌名

      史林

      巻: 104 ページ: 375~406

    • DOI

      10.14989/shirin_104_3_375

    • 査読あり
  • [学会発表] From the Concept to Goddesses: The Earliest Iconography of The Goddesses Dual Maat2022

    • 著者名/発表者名
      Tokihisa Higo
    • 学会等名
      American Research Center in Egypt 72nd Annual Meeting 2022
  • [学会発表] 古代エジプトの死者の裁判-第 18 王朝の「死者の書」を中心に2021

    • 著者名/発表者名
      肥後時尚
    • 学会等名
      日本宗教学会第80会学術大会
  • [学会発表] 古代エジプトの「死者の書」における「否定告白」についての一考察2021

    • 著者名/発表者名
      肥後時尚
    • 学会等名
      日本オリエント学会第63回大会

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公開日: 2022-12-28  

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