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2022 年度 実施状況報告書

古代エジプトの「二柱のマアト」の実体解明-「死者の書」を手掛かりにして-

研究課題

研究課題/領域番号 21K13117
研究機関金沢大学

研究代表者

肥後 時尚  金沢大学, 新学術創成研究機構, 研究協力員 (50882289)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2025-03-31
キーワード「二柱のマアト」 / 『死者の書』 / 「死者の審判」 / 冥界 / 「無罪の宣言」
研究実績の概要

2022年度の研究では、前年度の研究に引き続き、古代エジプト新王国時代第18王朝時代の『死者の書』の悉皆調査に専心した。
2022年8月には、資料調査を目的としてライデン大学近東研究所を訪問し、同研究機関のエジプト学教授であるオラフ・カッパー教授をはじめとする現地の専門家との議論を行った。そして、新王国時代に制作された『死者の書』に描写される「二柱のマアト」の性格が変化の過程にあるとする見解を共有し、変化の背景にある当時の政治的・思想的背景を追求することで、「二柱のマアト」の実体の理解につながるという結論に至った。
これをうけ、第18王朝時代における「二柱のマアト」を異なる視点から分析するため、新たに「二柱のマアト」と関連する当時の来世思想の1つである「死者の審判」(「死者の裁判」)の分析に着手した。「死者の審判」は死後の復活を果たすために死者が冥界で受ける審判であり、死者は審判に先立ち生前の身の潔白を宣言する「無罪の宣言」を行う。この「無罪の宣言」の内容は、従来の研究において写本ごとの変化を示さない場面であると認識されてきた。しかし、第18王朝時代の複数の写本を比較・分析することで、同時代における「無罪の宣言」の内容は、写本ごとに明らかな相違があり、「二柱のマアト」と同様に多様性に富むことを示した。これにより、新王国時代第18王朝時代における「二柱のマアト」と「死者の審判」に関連する「無罪の宣言」は、共通して当時の来世思想を構成する新たな要素として組み込まれ、その後の来世思想の収斂に向かう変化の過程にあった可能性を示した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

新型感染症の状況の改善により、本年度は当初に計画していたライデン大学近東研究所での研究滞在が実現可能となった。これにより、同研究機関所属の専門家との議論や、同研究機関が所蔵する資料の閲覧が可能となり、「二柱のマアト」に関連する有益な情報を収得し、研究を推し進めることができた。また、2022年4月でのAmerican Research Center in Egyptでの国際学会での発表を通して、新たな研究者間のネットワークを構築できた点は、今後の研究活動においても有益になると考える。
しかし、本年度の研究を通して、分析対象である「二柱のマアト」の実体解明につながる新王国時代の来世思想が、研究代表者の想定よりも深淵かつ複雑であり、その正しい理解に十分な注意が必要であることを認識した。そのため、個々の先行研究の整理に注力し、結果として第18王朝時代と一部の第19王朝時代の『死者の書』における「二柱のマアト」の分析に留まる状況にある。
その一方で、新王国時代の「無罪の宣言」の写本の分析を通して、写本ごとの同場面の相違点やその理由を新たに発見し、「二柱のマアト」の理解につながる当時の来世思想の研究を推し進めることができた。新たに解明した「無罪の宣言」の内容の不定性は、同時代において変化の段階にあった「二柱のマアト」の実態解明に新たな視点をもたらすものであり、新王国時代における「二柱のマアト」や、これらの神々が描写された『死者の書』のさらなる理解の深化が期待される。
以上の内容から、本年度の「二柱のマアト」及び『死者の書』の研究は概ね順調に進展していると判断できる。

今後の研究の推進方策

本年度の研究は1500年にわたって利用された『死者の書」の最初期の段階である第18王朝時代の写本の分析に専心してきた。これにより、『死者の書』に描写される「二柱のマアト」の変遷について、関連する「無罪の宣言」の変化の傾向と比較しながら解明を進めることができた。『死者の書』は、続く新王国時代第19王朝・第20王朝に加え、第3中間期以降にも数多く利用されている。第18王朝時代の写本の分析によって明らかにされた冥界における「二柱のマアト」の役割は、時代を経て変化することが予想される。古代エジプト史の後半における「二柱のマアト」の実体解明するため、次年度以降の研究では、第19王朝時代及び、第20王朝時代の『死者の書』の写本及び関連資料を分析対象に定め、新王国時代における古代エジプト人の思想の変化の背景への理解を深めながら「二柱のマアト」の変遷を辿る予定である。個別の『死者の書』の写本の記述・図像分析の継続により、「二柱のマアト」の特徴や役割の詳細を段階的に蓄積し、古代エジプト史における「二柱のマアト」の全体像の再構築に大きく寄与することが期待される。また、前年度と同様に国際学会での研究発表や海外の専門家との議論を重ね、本研究課題のさらなる進展を目指す予定である。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)

  • [雑誌論文] 古代エジプトの冥界における「冥界の判事」について2023

    • 著者名/発表者名
      肥後時尚
    • 雑誌名

      『古代中近東における「冥界」

      巻: 1 ページ: 21-45

  • [学会発表] From the Concept to Goddesses: The Earliest Iconography of The Goddesses Dual Maat2022

    • 著者名/発表者名
      Tokihisa Higo
    • 学会等名
      American Research Center in Egypt 73rd Annual Meeting 2022
    • 国際学会
  • [学会発表] 古代エジプトの42柱の冥界の裁判官2022

    • 著者名/発表者名
      肥後時尚
    • 学会等名
      日本宗教学会第81回大会
  • [学会発表] ‘As Occurs in this Broad Hall of Dual Maat:’ The Earliest Iconography of the Goddess Maat in the Judgement Hall2022

    • 著者名/発表者名
      Tokihisa Higo
    • 学会等名
      KANAZAWA EGYPTOLOGY SYMPOSIUM 2022 Commemorating the 200 years of Egyptology ARCHAEOLOGY OF DEATH: Rituals and Afterlife in Ancient Egypt(
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] From Sacred Barks to the Two Goddesses: Transitions of the Concept of ‘Two Truths’2022

    • 著者名/発表者名
      Tokihisa Higo
    • 学会等名
      Tokyo Egyptology International Symposium "200 Years after Champollion: Text and Context in Ancient Egypt
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 古代エジプト第18王朝時代の『死者の書』における冥界の判事について2022

    • 著者名/発表者名
      肥後時尚
    • 学会等名
      日本オリエント学会第62回大会

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公開日: 2023-12-25  

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