研究課題/領域番号 |
21K13121
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
岩本 佳子 長崎大学, 多文化社会学部, 准教授 (90736779)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 遊牧民 / オスマン帝国 / トルコ共和国 / 定住化 / 言説 |
研究実績の概要 |
17世紀末以降、オスマン朝とその後継国家であるトルコ共和国では、遊牧は「非文明的」とされ、その担い手である遊牧民は定住化政策の対象とされてきた。その一方で「イスラーム以前・中央アジア由来の民族の伝統」として、遊牧や遊牧文化をある種の「高貴な野蛮人」として称揚する言説も併存し、しばしば、史実とは異なる歴史や伝統の捏造すらなされてきた。そのような言説の歴史的真偽、その成立と変遷の過程、 それらと現実の政策や社会とのつながりを問う研究は、現在に至るまで充分にはなされているとは言い難い状況にある。 本研究では、トルコ共和国大統領府オスマン文書館に主に収蔵される公文書や、オスマン朝下もしくはトルコ共和国書記に発行された学術雑誌や官報といった定期刊行物などを主史料として、上記のような、現代トルコにおける遊牧民に対する一見相反するイメージや表象の成立とその変化、それらと遊牧民に対して取られた実際の政策、政治や文化運動との関係を解明する。具体的には、17世紀末以降の 1) 非文明人としての蔑視と伝統や勇武の保持者という、相反する遊牧民のイメージや表象の、オスマン朝における成立と展開を解明する 2) 遊牧民に対す る表象と、定住化の強制や民兵の組織化といった実際の対遊牧民政策との関係を明らかにする 3) 現代社会における遊牧文化やその歴史は、どのように位置づけられ、意味づけられるのか という問いへの解答を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスの世界的な拡大、特に、長期にわたる現地調査を予定していた2021年度の夏季、冬季においては、日本国内、トルコ国内の感染爆発が著しく、ワクチン接種やワクチンパスポートなどの検疫システムの不備もあり、予定していた現地調査を断念せざるを得なかった。オスマン朝およびトルコ共和 国期の定期刊行物の、公開ウェブアーカイブの活用や、トルコ国内居住の研究協力者、トル コの公文書館が提供する公文書複写データの取寄サービス、イスタンブル大学トルコ共和国 における新聞Webアーカイブ、ボン大学オスマン語定期刊行物デジタルアーカイブなどを活用した資料調査を実施したが、当初予定していた現地滞在時の資料調査を上回る成果を達成することはできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度8月に、トルコ共和国イスタンブルの大統領府オスマン文書館(BOA)、イ スラーム研究センター(ISAM)、トルコ、アンカラのワクフ総局図書館附属文書館 、トル コ歴史協会図書館(TTK)といった研究施設での史料調査を2-3週間程度、当初の計画通りに実施する。上記施設に 収蔵される、1) 対遊牧民の諸政策に関するオスマン朝公文書史料 2) 遊牧民に関する記事や言説を収録した『オスマン歴史協会詳報』等のオスマン朝期および共和国期に発刊された新聞、学術および一般雑誌などの定期刊行物 を収集・分析し、昨年度に実施できなかった資料の本格調査を進め、研究の遅れを挽回する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの世界的な拡大、特に、長期にわたる現地調査を予定していた2021年度の夏季、冬季においては、日本国内、トルコ国内の感染爆発が著しく、ワクチン接種やワクチンパスポートなどの検疫システムの不備もあり、予定していた現地調査を断念せざるを得ず、次年度使用額の発生に至った。 2022年度はトルコ現地での資料調査および文献調査を実施し、予算の年度内の円滑な活用に努める。次年度使用額は、2021年に実施予定だった現地文研長期調査を2022年8月に実施する際に、オスマン文書館に所蔵される本研究に関連する公文書コレクション十数点の複写申請代金として使用の予定である。
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