研究課題/領域番号 |
21K13122
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
莊 卓燐 学習院大学, 付置研究所, 助教 (50880613)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 中国史 / 簡牘史料 / 符 / 亭 / 古代の交通 / 国家構造 |
研究実績の概要 |
本研究は、秦漢時代の国家支配における亭の役割を考察し、国家支配の末端である「亭」という施設に注目し、亭がつかさどる「符」という通行証を検閲する機能を媒介として、「交通」という視点から秦漢帝国の「権力構造」の解明を目指す。 令和3年度は、伝世文献資料における亭の情報を収集・分析しながら、先行研究の亭に対する理解を再確認する作業を行い、亭研究の現状の成果と課題を整理した。また、近年発見された新出土文字史料である『虎渓山漢簡』『嶽麓秦簡』『肩水金関漢簡』などから亭に関する記述を抽出する作業を行った。 上記の関連資料の収集・整理作業を踏まえた上で、史学会大会の東洋史部会にて「出土史料からみる秦漢時代の亭」を題に研究報告を行い、「水亭」「門亭」といった水路交通や陸路交通の要衝に付設されている亭を中心に、秦漢時代における亭の役割を考察した。その結果、従来指摘されてきた治安維持機構としての側面のみならず、交通検問機構としての側面も強く反映されていることがわかった。具体的には、亭は符や伝といった通行証を検閲する役割があり、通行の制限をもって郷里と郷里との間を分断させていた。『風俗通』に「亭、留也」とあり、『釈名』に「亭、停也」とあるように、亭の語義には引き留める、停止させるといった意味がある。それは『漢書』巻一に引く顔師古注の「亭、謂停留行旅宿食之館」に理解されるように、公務を担う者を宿泊させるための施設でもあるが、より根本的な意義は、通行者を一時的に停止させて交通検問を受けさせることである、との理解を得た。 令和4年度は、前年度の研究報告の活字化を目指し、学術雑誌に投稿して積極的に発信していきたいと思う。また、亭の役割を解明するにあたり、課題として残った亭の吏員について調査を進め、秦漢の国家制度の側面から亭を捉え、その経過報告を発信する機会を模索してゆきたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の進捗状況は概ね順調に進展している。新型コロナウィルス感染拡大のなかで、本務校以外の研究機関に訪れることは困難であるが、本研究の調査対象資料の多くは閲覧可能な状態にあるので、資料の収集は予定通りに遂行することができた。 また、学会報告についても、従来の対面式で開催できないなかで、各学会の主事が機転を利かし、ZOOMによる全面オンライン型会議、或いは対面とオンラインのハイフレックス型会議が開催され、学会における研究報告も予定通りに行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
当面の間は、亭に関連する資料の収集と整理を継続してゆきたいと思う。とりわけ、伝世文献資料と出土文字資料の収集は概ね完了しているが、画像石などの文物史料の収集はまだ着手していないため、その中から亭に関連するものを収集し、整理作業を進めてゆきたいと思う。 また、当初の予定では3年目から中国へ実見調査をを行う予定である。少し先のことになるが、現段階では予定通りに進めてゆきたいと考えている。新型コロナウィルス感染症の影響が落ち着いたら、まずは中国の湖北省・湖南省へ実見調査を実施したいと思う。
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次年度使用額が生じた理由 |
中国本土における新型コロナウィルスの感染拡大およびロックダウン措置により、物流の遅れが生じて購入したい簡牘の図版が予定通りに入手することができなかった。前年度の予算の残額を次年度に繰り越し、日中図書業務の専門業者を経由して調査対象資料を入手したいと思う。それが困難な場合には、使途を変更して国内の専門書の購入費として使用したいと考えている。
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