研究課題/領域番号 |
21K13122
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
莊 卓燐 学習院大学, 付置研究所, 助教 (50880613)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 奏ゲン書 / 亭 / 簡牘史料 / 符 / 律令 |
研究実績の概要 |
令和4年度は、「奏ゲン書」の解読および分析に力点を置き、秦漢時代の郷里間の往来に着目して、亭を媒介とした地方末端への支配構造の一端を解明した。 『嶽麓秦簡』と『張家山漢簡』には「奏ゲン書」と題された一連の簡がある。これは秦漢時代の裁判において、地方では論断を下しがたい案件を中央に上申した裁判記録の覚書である。『嶽麓秦簡』には一五の案例があり、『張家山漢簡』には二二の案例がある。これらに記された秦漢時代の案例から、郷里を越えた役人の捜査活動が見られ、亭の郷里を結ぶ役割の一端が見られる。 たとえば『嶽麓秦簡』「奏ゲン書」案例一「癸瑣相移謀構案」において、校長の果が管轄する亭で、治をはじめとする男性八人・女性二人が集団強盗殺人の罪を犯し、犯罪現場と隣接する沙羨へ逃亡した。上級司法機関である郡県から派遣された校長の癸は、亭を経由して沙羨に入り、治らの逮捕を果たして帰還した。この事例から、癸が率いる集団の中で、亭の役人(上造の柳)だけではなく、士伍の身分である轎と沃という人物が含まれる。士伍とは、二〇等爵制の最下位に位置する無爵者の平民であるが、この事例から地域を越えて犯人を追跡する役目は役人のみならず、特定の条件下で一般民衆も参加し得ることがわかる。 また、案例四「盜売公列地案」において、亭の役人である亭佐の駕が市場の公列地の授与に介入したことも興味深い。秦代には一般民衆に土地を分け与える。この一般民衆とは、「黔首」と呼ばれる犯罪記録のない良民に限る。一般民衆の犯罪記録ひいてはその身分は戸籍に登録しており、役人は戸籍の情報に基づき土地の分配を行ったと見られる。亭の役人がこの土地の分配に介入したならば、戸籍の情報を確認できる可能性がある。これを踏まえた上で、符の発行も良民(官獄徴事なし)に限るとのことに鑑みれば、亭の役人は戸籍の情報を確認し符の真偽を確かめることが可能であるとわかる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本務校の節目の年および所属学会の節目の年にあたり、複数の大きな記念行事に時間を割いたことと、家庭の事情により本研究課題の進捗状況はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
『嶽麓秦簡』と『張家山漢簡』の奏ゲン事例は秦・漢初の司法状況を反映し、郷里間の移動といった当時社会の様相を呈している。これらと一貫した内容は、後漢時代の裁判記録を記載した『長沙五一広場東漢簡牘』(以下は『五一広場漢簡』)にも見える。 たとえば「故亭長王廣不縱亡徒周順案」は、後漢の臨湘県の南部に設置された亭において職務怠慢の不正が発覚されたと記録している。当時南亭租船史を務める(周)順という人物が、姓名の照合を行わず、徴収すべき税金を納めなかったことが江湖掾によって発覚され、南亭の帳簿と照合して罪状が認定された。税金の徴収や帳簿の照合など、秦・漢初には見えない亭の事象が後漢の裁判記録に見える。今後は『五一広場漢簡』の事例を読み進め、秦・前漢・後漢の郷里社会を貫通的に理解することを課題にしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた中国への出張調査は、コロナウィルスの感染拡大により、実行することができなかった。そのため、中国への出張調査費用を次年度に持越し、次年度に実施したいと考えている。
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