研究課題/領域番号 |
21K13122
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
莊 卓燐 学習院大学, 付置研究所, 助教 (50880613)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 質日 / 簡牘 / 交通 / 亭 / 秦漢史 |
研究実績の概要 |
令和5年度は、「質日」にみえる公的な出張または私的な旅行の記録に焦点を当て、当事者が訪れた地方や利用した宿泊施設など、移動経路を示唆する情報を整理しました。 質日とは、暦譜(カレンダー)に書き込みの一連の簡である。十月を歳首(年の始め)とする秦・漢初では、冒頭の簡に十月を起点とし、月ごとに六つの欄に分ける。偶数月を竹簡群の前半に記し、奇数月を竹簡群の後半に記し、閏年には後九月(閏月)を末尾に記す。欄ごとに日にちを示す干支が記されており、干支の下の余白の部分に簡単なメモ書きが見える。質日は公文書的な性格を持つゆえ、そのメモ書きには個人の出来事だけではなく、公務に関連する記載が見える。 秦漢時代の出土文字資料に干支を記載した簡牘は大量に発見されている。しかし、これらを安易に「質日」に分類することはできない。先行研究ではこれらを「視日(質日)」「日書」「葉書」の三種類に分けるとする。本研究では「視日」「質日」類の資料を細分し、暦日と同種類の視日類を一旦対象外にし、質日類のみを対象にし、『嶽麓秦簡』『周家台秦簡』『黄山秦簡』『張家山(三三六号墓出土)漢簡』等の質日類の資料について調査を行った。 整理の結果、秦漢の都へ複数地域を跨ぐ広域的な移動事例と、江陵を中心に南郡という特定地域内に限定された狭域的な移動事例が見られた。移動事例を分析するなかで、秦漢時代の役人は規定された移動距離を進行し、延滞に合わせて進行状況を細かく記録していたことがわかる。規定に沿った移動距離を進行するため、国家は役人をむやみに移動させたのではなく、広範囲に交通路を整備し、移動地の起点と着点の里数を綿密に把握していた。そこから全国的な中央集権支配を図っていたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の調査資料は準備の段階ですでに入手しているため、資料探しに時間を割く必要がなく、順調に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の作業は『睡虎地(77号墓出土)漢簡』質日と「里程簡」との調査を予定している。 本年度における質日の調査では、役人の地域移動から秦漢国家構造を形成する一端を垣間見ることができた。研究を更に深化させるため、新たな出土文字資料を用いて調査を行いたい。2018年の発掘簡報により、睡虎地77号漢墓から質日類の資料が大量に発見されていることがわかった。保存状態が良好なものに前元「十年質日」「十二年質日」「十三年質日」「十四年質日」、後元「元年質日」「二年質日」「三年質日」「六年質日」「七年質日」がある。復元可能のものに前元「十六年質日」と後元「四年質日」がある。これらの資料は『睡虎地西漢簡牘(壱)質日』(中西書局、二〇二三年)にて公表されたため、引き続きこれらの調査を予定している。 また、出土文字資料には「里程簡」と総称されるものがあり、本稿で取り上げた北京大学所蔵簡牘(出土文献与古代文明研究所編『北京大学蔵秦簡牘(壱)~(伍)』(上海古籍出版社、二〇二三年))のほか、居延、懸泉置、里耶などからも発見されている。秦漢の国家は広大な版図を効率的に管理・統治するため、遠隔地との距離を把握し領土拡大や交易路の確保など、対外的な国家戦略にも活用されていた可能性が高い。里程簡から秦漢国家構造を考察することを次年度の課題にしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
『睡虎地西漢簡牘(壱)質日』(中西書局、二〇二三年)など新たな出土文字資料の図版を購入して調査を進めたい。また、秦漢時代の南郡の郡内の交通を確認するため、中国への出張調査費用を次年度に持越し、次年度に実施したいと考えている。
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