研究課題/領域番号 |
21K13128
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
内田 康太 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (80879693)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 立法 / カエサル / 民会 / 元老院 |
研究実績の概要 |
本研究は、対象となる時代全体を、①カエサルのルビコン渡河から彼の暗殺に至る時代、②いわゆる第二回三頭政治の成立期からオクタウィアヌスが覇権を握るまでの時代、③アウグストゥスの時代、という三つに区分し、それぞれの時代に属する立法の個別事例を網羅的に収集するとともに、各法律の立法過程を分析する。 研究の初年度は、①の時代区分について作業を進めた。カエサルがローマの覇権を握ったこの時期に制定された法律については、これを伝統的な手続きによらない独断的な立法と評する点において、古代の歴史家から現代の研究者まで一定の共通理解が認められる。それに対し、本年度の研究では、カエサルの独断性を例証するとされる諸事例のいずれにおいても、元老院による承認・黙認と民会における投票を経た法制定という共和政の伝統が保持されていたことを論じた。なかでも、前49年にカエサルが独裁官として制定したLex Iulia de pecuniis mutuis(貸金に関するユリウス法)は、後の時代に皇帝が行使することとなる立法権をうかがわせる事例として注目される。しかし、関連史料の用語法を再分析するとともに、同じ年に制定されたLex Antonia de proscriptorum liberis(プロスクリプティオ対象者の子息に関するアントニウス法)との立法手続き上の類似性を示すことで、上記ユリウス法の立法過程においても元老院と民会による認可が存在したことが明らかとなった。 結果として、本年度遂行した研究により、カエサルが国家運営の実権を手中に収めた時期にあっても、ローマ市民団は元老院の承認を介して彼の行動を受容していた様子が確認できた。そしてこの知見は、皇帝が元老院による旧来の支配を媒介に、その代理人として市民団の支配を確立したという本研究の立てた仮説の検証に寄与するものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究は、カエサルのルビコン渡河から彼の暗殺までの時代を対象とし、予定していた立法の個別事例収集と分析作業を完了した。新型コロナウイルス感染症の流行により国外での資料調査を行うことはできなかったが、その分電子媒体の活用も含めた国内での資料調査は進展した。また、従来の研究ではあまり関心を向けられることがなく、本研究でも当初は検討の埒外にあった偽作史料についても、その利用可能性を見出すことができた。以上から、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、カエサル暗殺以降に確認される立法の個別事例収集と分析を、「研究実績の概要」に記した時代区分の順に従って進めていく。研究方法はこれまでと同様であるが、時代が進むにつれて立法の形態は多様化し、事例分析に際して参照すべき資料も拡大する。そのため、来年度以降は、在外研究の機会を得ることで一層完成度の高い研究を遂行し、本年度分も含めてその成果を国内外で公表することを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新型コロナ感染症の流行により、当初予定していた国外での資料調査を実施するこができなかったために、次年度使用額が生じた。翌年度は助成金を使用して、国内における研究資料の収集を継続するとともに、在外研究も実施する計画である。
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