本研究では中期古墳を構成する要素の中でも特に埋葬施設を軸として、政権中枢域である畿内、大型前方後円墳などが築かれる列島各地域を対象に、埋葬施設構造の詳細分析とその成立の背景を探ることを目的としている。初年度は新型コロナウイルスの感染拡大状況から広域移動が制限される場合も多かったため、近畿の各地域を中心に基礎資料の収集と分析、出土資料の実見調査を主に実施した。合わせて近畿の中でも発掘調査が高密度で行われている猪名川流域地域や木津川流域地域などを材料として、前・中期や中・後期の移行期における葬制展開状況のミクロな分析を進めるともに、これまであまり扱われてこなかった北河内における前・中期古墳の基礎情報の収集を行った。特に南山城の綴喜地域等においては古墳時代前期末から中期にかけての首長墳が高密度に分布しており、かつ過去出土資料の再整理も進行していることから、本研究の課題である中期的葬制秩序への移行過程を詳細にトレースできるケーススタディの場として有用である。北河内地域についても、これまで十分に様相が整理されていなかったものの、中期にかけての展開をトレースするうえで重要であり、特に重点的に検討を行っている。このほか、中期古墳における葬制を相対化するために後期の横穴式石室についても畿内の地域性の様相を整理し、古墳時代中期が葬制の地域性の表出という点で前後に対して特異な状況を呈するとの見通しを得た。前者は2022年度初めに問題提起の部分を雑誌レポートとして公表しているほか、後者についても本年中頃に論文として公表予定である。
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