最終年度である2023年度は、弥生時代から古墳時代前期における金属製武器の製作集団を抽出し、その生産と流通の実態を解明するため、ヤリや鉄剣、鏃などの糸巻きを対象にデジタルマイクロスコープによる観察を実施した。若手科研の三年間を通じて約300本のヤリ・鉄剣を観察し、また肉眼では見えない木製装具の内部構造の詳細を明らかにするため、積極的にX線CT調査を実施し、体系的な議論の土台を構築することができた。まず、弥生中期の糸巻き鉄剣の観察を終え、装具の形態的特徴に加え、その生産体制とその背景にある社会政治的体制に関する論文の投稿準備を進めている。また、昨年度に引き続き、弥生終末期から古墳前期のヤリや鉄剣、鏃などに巻かれている糸の素材、撚りの有無・回転方向、幅を観察・計測し、武器の型式ごと、そして古墳ごとの様子を確認した。その結果、①ヤリなど同一種類の器物における糸巻きの様子からみた生産体制の集約度合い、②ヤリと鏃(または農工漁具などの生産用具)といった異なる種類の器物を横断して、糸巻きの様子からみた器物生産諸部門の関連性という2つの課題について検討を深化させた。上記の分析データを踏まえ、ヤマト政権を中心とした地域間関係および中心周辺関係のあり方を検討した。その成果として、最古型式のヤリ(糸巻底辺型)の成立過程に関する論文および、ヤリの複数副葬例からみた生産流通体制の実態に関する論文の投稿準備を進めている。また、英語圏でなされている糸からみた集団間関係に関する研究を援用し、武器の生産・流通のあり方と政治権力との関係の相対化を図り、人類史への位置付けを試みた。三年間を通じて、金属製武器の生産から副葬に至る過程や、多様な系統の器物の流通方式をより実証的に復元できる手掛かりを得た。そのほか、SfM-MVSを用いた3Dモデルにより、通常の実測図では十分表現できない糸の資料提示法を模索した。
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