研究課題/領域番号 |
21K13138
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
中山 なな 独立行政法人国立科学博物館, 人類研究部, 特定研究員 (50898046)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 火葬 / 近世墓 / 江戸 / 骨考古学 |
研究実績の概要 |
3年度目である2023年度は、昨年度より引き続き、近世都市江戸における火葬習俗の解明を目指し、江戸遺跡より出土した焼骨の調査・研究に取り組んだ。今年度は新たに、蔵骨器5基分の焼骨を対象に、残存部位の同定と重量の測定、最小個体数、死亡年齢、性別の推定、および色調の観察を行った。 加えて、焼骨から得られた知見と、蔵骨器や遺跡の情報を統合し、拾骨の対象となった部位や重量、拾骨の順序および焼成の程度が、江戸時代を通じてどのように変化したのか、また寺院や宗派による差が存在したのか否かを検討した。 その結果、17世紀には主に頭蓋と歯が拾骨の対象であったが、17世紀末から18世紀初頭には、頭蓋と歯を中心として四肢骨も拾骨の対象となり、18世紀以降になると、全身の部位が拾骨の対象となるという変遷が明らかとなった。全身の部位の拾骨が始まるタイミングは、瀬戸・美濃産の専用蔵骨器とされる三耳壺・四耳壺の出現時期とほぼ重なる。こうした拾骨部位の変遷は、寺院や宗派の違いを超えて認められており、江戸全体として生じた習俗の変化であったと考えられる。また、全身の部位が拾骨された事例においても、蔵骨器内の分布をみると頭蓋や歯が上層に偏る例が散見される。全身を拾骨するようになった後も、頭蓋や歯に対する意識は、拾骨の順序という形で維持されていた可能性がある。 焼成の程度については、概して、頭蓋、椎骨、上肢の骨、手足の指は白色ないしは灰白色を呈し、焼成が進んでいるが、大腿骨や脛骨は暗褐色や黒褐色、黄褐色を呈し、さほど焼成が進んでいないという傾向がみられた。こうした個体内での焼成のばらつきが何に由来するのか、軟部組織の付着量や火葬時の姿勢が影響しているのか、さらなる検討が必要である。なお現段階では、こうした焼成のあり方に明確な時期差や宗派間での差は認められていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
テレワークを実施せざるを得ない日が多く、実際に焼成人骨を観察する期間を十分に確保できず、当初計画していたほど多くの資料を観察することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、引き続き出土焼成人骨の観察を行い、データの蓄積を図る。とりわけ、観察データが不足している18世紀後半から19世紀の事例を中心に観察を進める。さらに、得られた知見や分析の成果を学術論文にまとめ、広く公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
資料の観察の進捗が遅れ、物品購入費や交通費の支出が当初の予定より少なかったため。 次年度使用額は主に資料の調査・観察のための物品購入費および旅費に使用する。
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