研究課題/領域番号 |
21K13145
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
片渕 奈美香 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, アソシエイトフェロー (80882852)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 染織文化財 / 初期合成染料 / 耐光堅牢性 / 変退色 / 保存修復 |
研究実績の概要 |
近代染織品の文化財としての重要性の高まりに伴い、保存修復に関わる研究が求められている。こうした近代染織品に用いられている合成染料をはじめとする新規素材には、光や湿潤などの様々な外的要因に対して非常に脆弱なものがあることは経験的に認識されているが、その詳細については明らかでない点が多い。本研究では、明治期の日本で用いられた主要な初期合成染料を対象として、文化財の保存修復・展示に関わる外的要因の中でも、とくに重要である光による染色堅牢性や変退色に関わる知見の蓄積を行うことを目的とする。 1年目の本年度は、主に文献調査と実験のための準備を行った。文献調査では、明治期の日本で用いられた主な初期合成染料について、先行研究や当時の染色技術書などを用いて、候補とする酸性染料5点、塩基性染料4点、直接染料1点、計10点の合成染料を選定した。次に、これらの合成染料について、英国染料染色学会と米国繊維化学技術・染色技術学会によって共同で提供されているカラーインデックスを使用して、染料ごとに記載されている情報(染料部属、化学構造、発明年代、歴史的名称などについて)の収集を行った。また、日本において刊行されていた『染料便覧』に記載されている情報も併せて調べた。実験準備については、露光試験の実験計画策定を行うと共に、試料布の準備を行った。合成染料は、染料部属と呼ばれる染料の種類ごとに最適な染色方法が異なるため、これらについても調査した。以上をもとに、次年度から実験を進める計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の実施計画では、初年度は、文献資料をもとに明治期に用いられていた初期合成染料を選定し、これらの染料を用いて作成した染色布を試料として、露光試験までを行う計画であったが、まん延防止等重点措置に伴う出勤抑制などの理由により露光試験を完了することができなかった。このため、実験については次年度に持ち越すことにし、選定した染料の基本情報についての文献調査を進めた。以上のことから、本年度の進捗状況をやや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年度、準備を行った染色布を対象に露光試験を行い、変退色の程度の異なる染色布を作成し、得られた染色布について測色や抽出液の紫外可視吸収スペクトルの測定を行う計画である。また初期合成染料の光による変退色挙動の評価を行うための分析機器について、所属機関に既存の分析機器の選定や予備調査も進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に計画していた露光試験については、用いる装置の関係から依頼試験を予定していたが、まん延防止等重点措置に伴う出勤抑制や出張の見直し、依頼先の試験機の入れ替えなどの理由により、本年度中に実施することが出来なかったことから、次年度使用が生じた。
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