研究課題
2022年度は、前年度に実施できなかった近世大坂における地図出版(都市図、河川図、災害表現を含む摺物)に関する実物資料の調査を進めた。複数の所蔵機関を対象として、大坂に拠点のあった板元による出版例を収集し、大坂の災害図、とくに火災図については18世紀末の作製とみられる例を新たに見出すことができた。大坂の地図出版に関わる書肆の活動についても、播磨屋九兵衛を中心に、大坂本屋仲間記録から抽出し、その活動と災害図の出版動向との関係を見出す作業を進めた。また、近江国西部(現在の滋賀県大津市北部)を事例地として、近世から明治初期に至る山地から河川への土砂流出や、洪水の影響を受けた場所が表現された絵図類を調査した。その結果、当該地域の幕藩領主と地元村による中小河川の河川管理では、17世紀半ば以降の土砂移動への対応のあり方が、幕藩領主により設定した荒地の年貢減免、堤防の増築のほか、村レベルで設けられた「砂留」「砂待」と呼ばれる沈砂池の築造・維持に大きく分けられることを確認できた。当該地域の村絵図や堤防を特に主題とした絵図は、こうした山地からの土砂移動への対応の一環で、村落の土地の状態や普請箇所を記録し、幕藩領主の行政機構と地域共同体との間で情報共有を図ろうとするものであり、従来、耕地開発、治水、水利などと細分されてきた各種絵図の作製目的は、河川管理における一連のプロセスとしてとらえるべきであることが明確になった。今後は、この情報共有のメカニズムを、土木施設の普請に関わる古文書の分析をもとに具体的に把握していくことが課題である。このほか、幕藩領主が自ら主体となって作成したと推定される山城国・近江国内の河川絵図について複数の所蔵機関で調査を実施した。この作業によって、土砂の移動への対応という文脈から、絵図を用いた山地・河川の管理の実態とその政策的背景について検討を進めることができた。
2: おおむね順調に進展している
地図出版・災害情報の流通にかかわる諸資料の原本調査が進み、史料の記述との対照作業も比較的順調に進んでいる。また、村絵図資料については地域の事例を網羅的に検討する作業が進み、事例とその類型を見出すことができた。今後、文書・記録類の内容と突合させる作業において、分析をさらに深める余地がある。また、研究計画で2年目に予定していた、翌年度に本格的に行う淀川流域の幕府・藩による治水史関係資料の調査に予備調査を、主に近江国内の例を中心に一定程度進めることができた。
平時の地図出版と災害情報の流通(特に摺物)との関連を、本屋仲間などの資料群の記述をもとに進めていく作業を本格化させる。合わせて、そうした地図・摺物の作製スタッフ(作者、板元、売弘めなど)の個別的な検討も進める。手描きの河川絵図・村絵図については、調査対象とする資料群を特定し、山地や河川を支配・管理する機構やそれらの職務との関連に留意して、文書・記録類と絵図との関連性を個々の普請の例に即して具体的に分析していく。こうした作業をおこなうため、各種機関に収蔵されている絵図や文書の原本、または紙焼き・デジタル化資料の調査を進める。そして、その成果を学会発表または学術誌等でその成果を公表できるようとりまとめを順次進める。
上記の総合地球環境学研究所Eco-DRRプロジェクト発行の事例集のうち「絵図・地図からさぐる比良山麓の村々の土砂移動対応」を分担執筆(98-107頁)
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じんもんこん2022論文集
巻: ‐ ページ: 1-6
人文地理
巻: 74(3) ページ: 360-361
10.4200/jjhg.74.03_360
https://www.chikyu.ac.jp/rihn/publicity/detail/338/