研究課題/領域番号 |
21K13190
|
研究機関 | 淑徳大学 |
研究代表者 |
村上 玲 淑徳大学, コミュニティ政策学部, 助教 (80774215)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 表現の自由 / 欧州人権裁判所 / 欧州人権条約 / イギリス憲法 / 憎悪扇動罪 |
研究実績の概要 |
本年度はLee v Ashers Baking Company Ltd and others [2018] UKSC 49(Ashers事件)を軸に北アイルランドにおける憎悪扇動表現規制のうち、宗教的憎悪扇動罪及び性的指向に基づく憎悪扇動罪を素材として、そこでの法益としての人間の尊厳と公序について検討した。 Ashers事件は同性婚を推進するメッセージをのせたケーキのデコレーションの注文について信仰心に基づき拒否したものである。信仰心に基づく契約拒否が性的指向に基づくサービス提供拒否に該当するか、信仰心に反する表現について性的指向に基づく差別の禁止の観点から表現を強制されうるかが争われた事例になる。 英国最高裁判所は注文主の属性を理由とした注文拒否と注文内容に基づく注文拒否とに分け、本事件は後者にあたるとして注文拒否に対する民事責任を否定している。 この判決から、個人の尊厳の一端として、たとえ営利行為の中であっても、信仰心に反する表現を強制されないことについて法的保護が与えられうることが明らかになったと考える。 また、政治家によるジェノサイドを否定する発言への有罪判決が問題となった欧州人権裁判所判例であるPerincek v. Switzerland事件を再検討した。 欧州人権裁判所は条約が推進する価値と相容れない表現行為について、それへの規制を評価の余地として認め、当該表現については権利濫用として裁判所への申立自体を認めないという方針をとっている。本事件の判断において規制の必要性における「時間の経過」を考慮要素としている。これは保護法益における「公序」・「尊厳」のうち、歴史的事象を理由としてこれらの保護法益を掲げる規制を検討する際、重要な考慮要素となると思われる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
イギリスの判例における「公序」「尊厳」概念及び欧州人権裁判所判例における「公序」「尊厳」概念についての検討が網羅的には行えていないため。
|
今後の研究の推進方策 |
今後も引き続きイギリス及び欧州人権裁判所判例における「公序」と「尊厳」概念について、判例を紐解きながら明らかにしていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2023年度及び2024年度に海外調査を予定している。現在、為替相場が高騰しており、計画当初よりも渡航費用等が必要になると想定されるため、予算を繰り越すこととした。
|