研究課題/領域番号 |
21K13197
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
保井 健呉 同志社大学, 法学部, 助教 (00844383)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 武力紛争法 |
研究実績の概要 |
2022年度の研究実績として、論文としては同志社法学74巻6号に「武力紛争法上の『環境的考慮』の義務 : 攻撃の際の予防措置における環境損害防止のための『相当の注意』」を発表することができた。本業績では、環境損害防止のための相当の注意義務の概念と本研究課題における研究対象である攻撃の際の予防措置をとる義務について、それぞれの内容の比較検討を行うことで、攻撃の際の予防措置をとる義務の性質に対する理解を深めることができた。論文としてはほかにも、同志社法学に「電子戦の武力紛争法―電波電子戦の規律の概観―」を投稿し、2023年度での刊行が決定している。この論文は、本研究課題の対象とする非破壊的な戦闘の手段・方法に適用される攻撃の際の予防措置をとる義務について、電波電子戦を題材として取り組んだものである。特に電波電子線については、武力紛争法上の「攻撃」に該当しないことから、「軍事行動」に適用される攻撃の際の予防措置をとる義務の観点からの検討を行った。 研究実績の内、報告については、日本防衛学会において「ロシアによるウクライナ国民の『移送・追放』に関する法的議論」を報告したほか、国際人道法刑事法研究会で「ロシア・ウクライナ紛争下における戦争犯罪とその処罰」を、京都大学での国際法研究会で「武力紛争における「対敵協力者」の地位と保護―ウクライナによる処罰の論点と評価―」の報告を行った。これらはロシア・ウクライナ戦争の実相に対する国際法、とりわけ武力紛争法の適用を通した評価を試みたものであり、現在進行中の事態に対する理解を深めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
環境損害防止のための相当の注意義務と攻撃の際の予防措置をとる義務の比較検討を行った研究からは、攻撃の際の予防措置をとる義務の一般的性質に対する理解を深めることができた。また、当初、武力紛争法上の「攻撃」の要素を多く含むと考えられた電子戦の研究について、電波電子戦に限定した研究を行うことによって、攻撃に該当しない「軍事行動」に適用される攻撃の際の予防措置をとる義務の検討を行うことができた。さらに、本稿における検討は、電波電子戦が非物理的な手段で戦われることや、心理戦・認知戦の要素をも含んでいることから、研究計画上2023年度に予定していた内容の検討をも先取りして行うことができた。 また、2022年度に行った研究に関する報告を通して、2021年度の研究を最終的に停滞させる原因となったロシア・ウクライナ戦争に対する理解を深めることができた。ロシア・ウクライナ戦争では、2014年から2022年にかけてみられたようなハイブリッド戦ではなく、より古典的な正規戦を前面にして戦われている。しかし、本研究課題が研究対象としているサイバー戦や電子戦、心理戦なども並行して行われており、この点で最新の国家実行が今まさに示されている状況にあることを確認することができた。 これらは、2022年度の研究の進捗が、2021年度の研究の遅れを取り戻すだけでなく、当初計画よりもさらに発展させることができたことを示している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の背景にもある、武力紛争法上の予防措置をとる義務の性質を明らかにすることを目的とする研究について、研究計画を立てた時点における研究対象であった非物理的な手段を用いる攻撃ではない軍事行動の際に適用される予防措置をとる義務の研究と、人の心理や認知を対象とする軍事行動の際に適用される予防措置をとる義務の研究を行うことができた。他方で、これらの検討は、数多ある戦闘の手段・方法の内、あくまでも電波電子戦という一つの領域に関して行われたものに過ぎない。この点で、当初の研究計画にあるように、サイバー戦や心理戦などにも電波電子戦の場合と同様の研究の結論を導き出すことが可能であるのかを検討することを予定している。 加えて、ロシア・ウクライナ戦争では、本研究課題の研究対象とする戦闘の手段・方法であるサイバー戦や電子戦、心理戦が戦われている。2022年度の研究の結果として明らかとなったロシア・ウクライナ戦争の実相を踏まえたうえで、実際の武力紛争における国家実行として、非物理的な手段を用いる軍事行動の際に、どのような予防措置をとる義務があるのかを明らかにしていきたいと考えている。 なお、ロシア・ウクライナ戦争における国家実行の検討については、必ずしもサイバー戦や電子戦、心理戦といった非物理的な手段による軍事行動に限られない、物理的な手段による攻撃などの際に適用される予防措置をとる義務の履行の実相を検証する研究を進めることも検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を計画していた書籍のいくつかの出版が2023年度へとずれ込んだこと。また、2023年度からの所属機関の異動に伴い、年度末に研究費の使用計画を実行できなかったため。 来年度の研究費の使用については、引き続き書籍費としての使用を計画しているほか、異動先での研究環境の整備のためにも用いることを予定している。
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