研究課題/領域番号 |
21K13215
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
高岡 大輔 九州大学, 法学研究院, 准教授 (60850857)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 名誉毀損 / 信用毀損 / 不法行為 / 権利侵害警告 / 営業誹謗 |
研究実績の概要 |
本年度は、とりわけ、信用毀損に関するドイツ法の判例について、検討し直した。とりわけ、連邦通常裁判所(BGH)の判例については、データベースに公表されているBGB 824条の判例全てに目を通した。その結果として、ドイツ法における信用危殆化による責任と名誉毀損による責任との区別は、やはり立法当初に想定されていたよりも縮小傾向にあるという考えは強まった。このことは、信用毀損の類型論的分析において中心的な問題となる名誉毀損型の信用毀損について、信用毀損の規律よりも被害者に有利な名誉毀損の規律との適用領域の区別を法益の区別という観点から行うことは困難である、ということを裏付ける。 もっとも、下級審においては、営業に関係する場面で名誉毀損の規律の適用を制限すると明言する判決も2つ見つかった(OLG Celle, OLGZ 1978, 74-79; OLG Frankfurt MMR 2018, 474)。これを考慮すると、ドイツ法における名誉と信用の法益の区別は、限界事例においては縮小しているが、それとは別に、それぞれの核心的適用領域は存在し、それを法益の観点から定義しうるという可能性についてさらに検討する必要がある。そのような区別があるとすれば、おそらく、名誉毀損の規律が主張されないで信用危殆化の規律のみによって扱われている領域が信用固有の問題領域であり、あえてそこで名誉が主張されることも最上級審レベルではなかったことで、名誉と信用の区別が顕在化しなかったのではないかと考えられる。もっとも、このような点を、前年度に公表した論文に加える成果として発表するためには、なお学説についての整理と検討を加えた上で、日本法の判例との関係を再検討する必要がある。 これとは別に、信用毀損における故意の内容に関する争いへの関心から、不法行為法上の故意の意義の一端についても研究を行い、論文を公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予定では、この年度までに研究を完了することになっていた。しかし、最上級審である連邦通常裁判所(BGH)の判例に加えて、下級審裁判例について再確認したところ、いくつかの点で、下級審レベルでは最上級審と異なる傾向もみられることも分かった。すなわち、最上級審では、信用毀損的事例に名誉毀損の規律の適用を拒否していないだけでなく、ごく近年のものでは、一般的人格権侵害としての名誉毀損の違法性と、営業権侵害の違法性とを合わせて検討するような判示がみられる。これに対して、下級審レベルでは、信用毀損的事例に対する名誉毀損の規律の適用を拒否した例が散見される(OLG Celle, OLGZ 1978, 74-79; OLG Frankfurt MMR 2018, 474)。 このようなことを考慮しても、基本的な構想には変化はなく、ドイツ民法上、立法当初と比較して信用と名誉の区別が実際上縮小したと考えているが、法益の点にどのような区別が残されていると考えられるか、再検討を要すると考えるに至った。この検討については、既に行った研究を補充するものであることから、ある程度の労力で完了できるとは考えているものの、予定の年度までに研究を完了して成果を公表することがなおできなかったため、研究は予定よりやや遅れているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間を1年延長することにより、ドイツ不法行為法上の信用毀損の規律と名誉毀損の規律の適用領域の区別について、法益の区別の観点から補充的な検討を加える。これによって、信用毀損の類型論的分析の最も主要な部分である、名誉毀損的信用毀損という問題について、最終的な結論に至ることが可能となる。すなわち、これまでの成果により、この領域では限界事例においては損害の観点から二つの規律の適用領域を区別するほかないと考えるに至っていたが、それとは別に、信用毀損の典型的・核心な適用領域を切り出すことはそれとは別に可能なのではないかという方向性から検討を行うことで、信用毀損の規律の適用領域のもう一つの側面を明らかにすることができる。 既に、判例については検討を終えているため、学説の議論について若干の補充的な調査を行えば、研究の材料は十分にそろえることができる。その上で、上記の補充的な検討とこれまでの検討の結果との関係を位置づけることで、研究を完了することができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進行に伴って文献調査の方法や時期の見直しが必要となったことから、予算の一部が当初予定していた時期に執行できなかった。とりわけ、研究の方法について、当初考えていた文献収集に基づく方法から一部変更し、途中で判例研究に重点を置く作業方法をとった。この作業は想定していたよりも時間を要したことから、当初予定していた文献収集のための書籍費や文献調査の委託に伴う人件費の支出を要する作業について、翌年に行いたいと考えるに至った。 このような経緯を反映して、今年度は、文献収集(特にドイツ現地での資料収集)と、ドイツ国外から日本国内の文献を収集するための人件費を必要とする作業を行うことを計画している。次年度使用額はそれらの目的で使用することとしたい。
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