本研究においては、がん(悪性腫瘍)に対し有資格の医師が科学的根拠に乏しい診療を提供する場合に焦点をあて、こうした診療に対する法的規制について考察してきた。 最終年度は、それまでの研究において事後的救済(民事損害賠償)では不十分であり、科学的根拠に事前的規制が必要となることを明らかにしたことを踏まえ、事前的規制のあり方について模索した。 まず、第一に、安全性および有効性(そのうちとくに、安全性)が未確立の医療については、診療としてなすことに制限を設けるなど、医療行為に対する事前規制のルールを策定することについて検討した。第二に、主に、カナダ・オンタリオ州の医療従事者に関する法制度を参照しつつ、強制加入の職能団体による統制の可能性につき考察した。この点については、現在、論文を執筆中であり、ここでは詳細は差し控えたい。さらに、第三に、このような医療がなされる場合の診療方針の決定を念頭におき、医師患者関係を考察しなおした。これに関しては、2024年度の日本医事法学会研究大会のシンポジウムにおいて研究成果の一部として発表予定である。 2023年度で科学研究費の女性は最終年度であるが、今後は医業類似行為や民間療法も視野にいれ、その受け手の安全という観点から、医療の科学的根拠、医師(施術者)の裁量といったことについて考察を続ける予定である。
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