本年度は、テキサス州エル・パソでのフィールドワークの結果をまとめ、学会報告を行って成果を公表した。具体的には、コミュニティ・オーガナイジングにおけるオーガナイザーの役割、そして組織構造の特徴を明らかにするため、多くの関係者にインタビューを行い、質的調査ソフトを用いてデータ処理を行った。研究期間全体を通じ、現代デモクラシー理論のなかにコミュニティ・オーガナイジングというローカルな活動を位置付けることの困難と、実践に見られた興味深い特徴が示された。政党や利益集団といったフォーマルな組織ではなく、NPOという組織形態をとる以上、とりわけ選挙政治との距離は近くない。また、政府からの資金の流れはなく、ほとんどが教会、労働組合、PTAなどからの寄付や会費で運営され、オーガナイザーの給与もそこから拠出されているため、オーガナイザーには地域住民のニーズを汲み取り、信頼と寄付、会費を集めるインセンティブが働く。また、オーガナイザー間には成果主義が徹底しており、必ずしも強靭なヴォランティア精神、変革志向性、平等な発言権といった社会運動全般に前提とされる条件はコミュニティ・オーガニゼーションには当てはまらなかった。むしろオーガナイザーを「エリート」とみなし、地域住民をフォロワーとして「民主的リーダーシップの逆説」を指摘する方が、実践に即していると結論付けられた。他方、先行研究において重要視されつつある教会(宗教)とオーガナイジングの関係性については、理論面・実証面においても十分に議論し、問題提起することができなかった。
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