研究課題/領域番号 |
21K13257
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
山本 翔平 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 特任講師 (90895814)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | Time preferences / Cross-modal decisions / Effort |
研究実績の概要 |
本研究のメインの調査の一つはエフォートに関する時間選好が、ユニモダルの意思決定(材が同じ時の意思決定)と比べてクロスモダルの意思決定(材が異なる時の意思決定)のときにどのくらい変化があるかを調査することである。本研究が調査する時間選好は2種類あり、1つ目は時間整合性である。例えばエフォートの場合、将来の時点TでタスクをX行う予定だったのにも関わらず、TになったときにXをしたくなくなるというような先延ばしが、時間非整合的な意思決定と呼ばれる。このような時間非整合的な意思決定が先行研究ではよく見られている。一方、別の先行研究では消費財を使ったクロスモダルの異時点間選択の際には、意思決定に対する時間の影響が低かったことがわかっている。よって、エフォートに関するクロスモダルの異時点間選択のときに時間の影響も低ければ、人々はより時間整合的な意思決定をして、先延ばしなど問題となる行動を軽減することができる可能性がある。 本研究のメインの実験では参加者が2種類の異なるタスクを使ってクロスモダルの時間選好を測る予定だが、先行研究では多くのタスクが使われてきたので、どの2種類のタスクを使うべきなのか選択するための実験を行った。実験では、よく使われる4種類のタスクを用意し、参加者にそれぞれのタスクを行ってもらった。タスク終了後、それぞれのタスクが、他のタスクとどれくらい似ていると感じたかを調査した。また、PESTという方法を用いて、それぞれ20のタスク量に対し、同じくらいの負担だと感じるためには、他のタスクはどれくらいのタスク量が必要かどうかを調べた。結果、引き算とスライダーを所定の位置に移動させるタスク(スライダータスク)と、画像の文字を書き写すタスク(書き写しタスク)が参加者にとって最も異なるタスクだと感じることがわかり、スライダータスク20に対し、書き写しタスク21が同じくらいの負担だということがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で記述した実験が終わり、興味深い結果を得ることができた。本研究のメインの調査の一つはエフォートに関する時間選好が、クロスモダルの意思決定(材が異なる時の意思決定)のときにどのくらい変化があるかを調査することである。 研究協力者のDaniel Read教授とRebecca McDonaldとも綿密にミーティングを行い、2022年度はじめにメインの実験を行う予定である。Experimental Economics Seminarsや、バルセロナでJordi Quoidback教授などが主催するセミナーでこの研究を発表した際には、多くのフィードバックをもらい、改善しながら現在実験デザインを作成中である。 また、異時点間選択が投資(現在の利得がマイナスだが将来の利得がプラス)やローン(現在の利得がプラスだが将来の利得がマイナス)のように見えるときに、どのくらい時間選好が変わるか調査した研究が進んでいる。クロスモダル効果は意思決定の時に考慮する属性(材と時間)が増えるために大きくなると言われているが、この研究も利得の符号という属性が増えるという意味で、クロスモダル効果と深く関わっている。この研究は、実験経済学で最も大きな学会の一つである、AP-ESA、行動科学で最も大きな学会の一つであるSPUDMで発表した。この学会でのフィードバックを受け、次の実験のデザインが進行中であり、2022年度の初めころに実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要で記述した実験が完了したので、デザインが完了し、倫理審査、プリレジストレーションなどの準備が終わり次第、メインの実験を行う。リサーチクエスチョンであるエフォートに関する時間整合性を測定するため、この実験は1ヶ月に及ぶ実験となり、参加者は3回のセッション全てに参加する必要がある。よって、1回のセッションで終了する多くの実験と違い、参加者の募集、実験デザイン、報酬受け渡しの方法などが複雑なので、時間をかけて注意深くデザインをする必要がある。一人当たりの報酬金額も大きくなるので、より大きなミスを防ぐ注意が必要である。よってデザインが完了したらまずは研究者の同僚たちに実験に参加してもらい、フィードバックをもらう。その後さらに、まずは数人の参加者を集めてすべての内容に問題がないかを確かめてから、実験に必要な人数(100人の予定)を募集する予定である。 実験の結果により、今後どのように進行していくかさらに議論する必要があるが、この研究の外的妥当性、また実践的な貢献をより主張するため、実際に大学生を集めて2種類の違う教科の課題を使ったクロスモダルの異時点間選択をしてもらうことで、より現実的な場面(フィールド実験)でもオンライン実験で得た結果を再現することができるのかを調査することには意義がある。また、消費財を使ったクロスモダルの先行研究では、異時点間選択の時点には現在の時点が含まれていたため時間整合性がクロスモダル効果にどの程度寄与しているかどうかがわからなかった。よって、異時点間選択の時点に現在の時点を含めずに再度調査してこの疑問を解明することにも学術的に意義がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
イギリスで開催されるはずだった国際学会のSPUDMがオンライン開催となり、旅費が全く必要なくなった。また、国内唯一の行動経済の学会である行動経済学会も、地元成城大学で開かれたために、旅費が必要ではなかった。 オンライン実験では、参加者が実験の内容を正確に理解できるかどうか、予想と全く異なる、解釈が難しい結果が出てしまわないかなど様々な不確定要素があるため、合計費用をあらかじめ正確に把握することは難しい。本研究の進捗は問題ないが、今回の実験では、実験デザインを注意深く作成したこともあり、スムーズに実施することができた。実験結果も道理にかなっており、一回の実験をしただけでこの実験の目的を達成することができた。追加の実験などをする必要がなかったために、多くの費用を捻出する必要がなかった。 最近の傾向として、徐々にオンラインでの開催から現地開催を実施する学会が増えてきた。現地開催で行われる国際学会では、オンライン開催では難しい研究者とのディスカッションや雑談などが容易にできるので、世界的な研究者とのネットワークをつくる最良の機会である。よって2022年度は、感染状況を注意深くみながら、2021年度叶わなかった分、行動科学で最も大きな学会の一つであるSJDM、バルセロナの大学でのセミナーでの発表やその大学の教授とのディスカッションなど、現地開催の国際学会やセミナーなどに積極的に参加していきたいと考えている。
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