前年度はFundamental-driven Liquidity Trap(FLT)とExpectations-driven Liquidity Trap(ELT)という2種類の流動性の罠について、Time-to-buildラグを伴う公共投資政策を導入したNew Keynesianモデルを用いて政策の含意を確かめた。前年度の時点ではトイ・モデルによる定性的な分析に留まっていたが、事業期間3年目にあたる2023年度はさらに日本のマクロ経済変数データに合わせてモデルのパラメータについてカリブレーションを行い、2種類の流動性の罠の下での政策効果の違いについて定量的な示唆を得ることができた。現在は結果を論文の形にまとめ、投稿準備を行っているところである。 来年度は今年度の成果について論文投稿を目指すとともに、初年度に策定した研究計画に従い、FLTとELTにおける第二の政策手段である消費税と所得税の段階的な調整を伴う非伝統的財政政策について、同様の分析を開始する予定である。 また、FLTとELTいずれの流動性の罠についても、経済主体の持つインフレ期待の変動が重要な要素であることが明らかになっている。この点について、サブプロジェクトとして、日本経済研究センターが行っている「ESPフォーキャスト調査」のパネルデータを利用し、日本のエコノミストのインフレ期待の近年の動向について実証分析を行った。今年度はその成果を国際学会で報告し、現在はコメントを反映する形で修正を行いつつ、こちらも論文にまとめているところである。
|