本年度は昨年度に引き続き、パネルデータモデルにおける構造変化の検定に関する研究を行った。
パネルデータモデルにおいて構造変化の検定を行う際には、クロスセクション間の相関を考慮する必要がある。先行研究ではクロスセクション間の相関構造をモデル化してこの問題に対処しているが、相関構造の特定化が誤っている場合には検定のパフォーマンスが悪くなってしまう。この問題に対処するために、昨年度はVogelsang (2012)の方法に基づいて、クロスセクション間の相関構造に対して頑健な構造変化の検定方法を考案した。昨年度に考案した方法は検定のサイズが良好であったが、既存の検定方法よりも検出力が低い場合があるという問題が生じた。そこで本年度は、ファクターモデルを用いてクロスセクション間の相関構造をモデル化して一旦相関構造を取り除き、その上で昨年度に提案した頑健な分析手法を応用することを考えた。シミュレーションを行った結果、本年度の研究で得られた手法は、検定のサイズが良好であり、かつ高い検出力を持つことが確認された。実際の相関構造がファクターモデルに従っていない場合においても本研究の手法が優れた性質を持つことが確認されたため、パネルデータを用いた計量経済分析を行う際に極めて有用であると考えられる。
なお、本研究の成果については2023年9月の統計関連学会連合大会、および2024年1月の関西計量経済学研究会にて研究報告を行った。今後は統計理論をより精緻化した上で、学術雑誌に投稿することを計画している。
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