研究課題/領域番号 |
21K13275
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研究機関 | 統計数理研究所 |
研究代表者 |
小池 孝明 統計数理研究所, リスク解析戦略研究センター, 特任助教 (80898742)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 裾従属性 / 多変量解析 / 従属性 / 接合関数 / 従属性尺度 / 相関係数 / Value-at-Risk / 定量的リスク管理 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は"従属性"と"リスク分配"の観点から多次元リスク管理の手法を発展させることであり,具体的に以下の4つの課題に取り組む: (1) 分配資本の精緻な計算, (2) 従属性と分配資本の関連, (3) モデルの不確実性の下での頑健なリスク分配, (4) リスク管理の観点からの従属性尺度の比較. 本年度は特に(1)および(4)の課題に対し研究を行ったので,その概要を述べる. (1) "分配資本の精緻な計算"に関して,パラメトリックな周辺分布と接合関数(Copula)により多次元リスクがモデル化されている場合に,直接計算・数値計算ともに困難とされるValue-at-Risk (VaR) リスク寄与度を計算可能な公式を導出し,数値計算によりその有用性を示した.これにより,経済資本がVaRで計算されている場合の分配資本が,パラメトリックな仮定のもとでより精緻に計算できる. (4) "リスク管理の観点からの従属性尺度の比較"に関連して,Gini's gammaと呼ばれる従属性尺度に対し,その一般化を行い,行列に拡張した際の行列の値域の範囲を明らかにした.またリスク管理の観点では,変数間の極値の従属性,すなわち裾従属性が重要である.この点から,裾コピュラを用いた裾従属性の定量化についても考察を行い,非対称な裾従属性を捉える新たな裾従属性尺度を提案した.これらの結果により,複雑に関連する多変量リスクのモデリングの発展に貢献した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
"分配資本の計算"や"(裾)従属性の定量化","従属性尺度の比較"といった各課題で研究に取り組み,一定の成果を上げることができた. 一方で,"モデルの不確実性のもとでの頑健なリスク分配"や"従属性尺度の新たな公理の探求"など,一部の研究課題に関しては大きな進捗は見られなかった. 進捗が望ましくないこれらの研究課題については近年盛んに関連研究が生まれており,研究者との意見交換が望まれる.一方で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大による海外渡航規制は継続中であり,研究者間の交流の機会が十分に得られなかったのは当初の見通しの誤りである. そのような中で目下の研究課題に注力し,課題毎の進捗や研究活動(論文の執筆と発表)に若干の偏りはあるものの,一定の研究成果が得られた.また,多くの新規研究計画も進行中であり,総合的に見て現在までの進捗状況はおおむね順調であると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の4つの課題: (1) 分配資本の精緻な計算, (2) 従属性と分配資本の関連, (3) モデルの不確実性の下での頑健なリスク分配, (4) リスク管理の観点からの従属性尺度の比較,に関して,引き続き研究を行なっていく.次年度に特に取り組む研究課題に対し,その方策を述べる. (1) "分配資本の精緻な計算"に関して,新たに導出した公式は,パラメトリックな周辺分布と接合関数(Copula)により多次元リスクがモデル化されている場合に有用であるが,ノンパラメトリックな設定においても有用であることが観察されており,これに基づくVaR リスク寄与度の新たな推定量について研究を行う. (2) "従属性と分配資本の関連"について,リスク間の負の従属性が重要な役割を持ち,また正の従属性と比べて未知の要素が多く存在する点を踏まえて,多変量の負の従属性の研究を行う.特に,joint mixabilityと呼ばれる最も強い負の従属性の概念の一つについて,統計的性質などの解析を行う. 本研究課題の関連分野として,モンテカルロ法による数値計算の分散減少法への利用なども考えられ,多方面への応用が期待される. (4) "リスク管理の観点からの従属性尺度の比較"について,引き続き様々な面から従属性尺度の比較について研究を行っていく.また,従属性尺度の特定の性質が接合関数の族を特徴付けることがこれまでの研究から明らかになっており,そのような従属性尺度と関連した接合関数の理論的性質の解析を引き続き行っていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大による海外渡航規制が引き続き行われており旅費が使用されなかったためである. 次年度において,主に研究図書の購入に使用することを予定している.
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