本年度は主に人的資本形成と能力情報伝達についての空間経済学的研究について行った。 具体的には、新経済地理学のモデルの下、形成された人的資本の移動に関して、評価コストが発生し、人的資本の地域間移動が不完全に行われる場合の人的資本の分布について分析した。 Pfluger(2004)モデルを拡張し分析した結果、輸送費の低下により必ずしも一地域への集積が生じるわけではではなく、人的資本の評価コストが高い場合には分散構造が維持されうることを示した。つまり、人的資本の完全集積が生じるのは、輸送費の低下と人的資本の評価コストの減少の経路に依存することを示した。それにより、輸送費の低下につれて、人的資本の再分散が生じる可能性を示した。 現在は、学会発表で得られたコメントなどを参考にして、追加計算の部分を論文にまとめ、ディスカッションペーパーとして公表する準備を行っている。 また、現在までにディスカッションペーパーとして公表した論文について、投稿作業を行っている。 最後に、評価コストと人的資本集積に関して、全体の研究成果について述べる。生産性が低く企業の戦略的行動の結果相対的に評価コストが高くなる地方では、評価コストや輸送費の両面から人的資本は流入・流出しづらくなる。一方で生産性が高く企業の戦略的行動の結果相対的に評価コストが低くなる都市部では、評価コストや輸送費の両面から人的資本は流入・流出しやすくなるということを理論的・数値的に示すことができた。
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