研究課題/領域番号 |
21K13305
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研究機関 | 西南学院大学 |
研究代表者 |
亀井 慶太 西南学院大学, 経済学部, 准教授 (60756526)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 国際貿易 / 寡占的一般均衡 / 公企業 / 民営化 |
研究実績の概要 |
本プロジェクトでは、公企業の民営化が労働市場や経済厚生に与える影響を調査するため、寡占的一般均衡モデルを構築し、(1)閉鎖経済における民営化の影響分析、(2)二国間貿易モデルへの拡張、(3)セクター間の労働組合の加入割合に注目した労働組合と公的企業の関係性分析の3つのアプローチから研究を進めている。 2023年度は、(3)の研究に着手し、労働組合の加入割合が高いセクターほど公的企業の民営化に対する抵抗が強くなる傾向にあること、労働組合と公的企業の強い結びつきが民営化による効率性の向上を制限する可能性を明らかにした。この結果は、政策立案者が民営化を推進する際に労働組合の影響力を考慮する必要性を示唆している。今後は得られた研究成果をまとめ、国際的学術誌への投稿を行う予定である。 また今後は、実証データを用いて理論的予測と実際の効果との整合性を検証し、民営化政策が労働市場や経済厚生に与える影響の正確な評価と効果的な政策策定のための知見提供を目指す。また、労働組合と公的企業の関係性が民営化の成果に与える影響についても更なる研究を進める予定である。 さらに、寡占的一般均衡理論に関する研究論文がEconomics Lettersに掲載許可され、資本家の株式保有状況が国際的寡占競争の度合いに影響を与えることを示した。この点はNeary (2003)では議論されておらず、本研究テーマのモデルの基本モデルとなりうる重要な基礎的研究となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本プロジェクトの進行状況は、当初の計画と比較するとやや遅れている。その主な理由は以下の2点である。 1) 本プロジェクトで構築している寡占的一般均衡モデルの理論的拡張に、想定以上の時間を要していること。特に、労働組合と公的企業の関係性を組み込んだモデルの構築には、技術的な困難があり、解決に時間を要している。当初は、既存の理論モデルを基礎として、比較的容易に拡張できると考えていたが、実際には、モデルの安定性や現実との整合性を確保するために、多くの調整が必要となっている。 2) プロジェクトの中間段階で、新たに着手した実証分析の検討が想定以上に大きかったこと。具体的には、各国の労働組合と公的企業に関する詳細なデータや既存の実証研究を収集する必要があった。この作業に多くの時間を割かれたことで、他の研究タスクの進捗に影響が生じている。 ただし、これらの遅れについては、徐々に改善されつつある。理論モデルの拡張については、研究チーム内での議論や外部の研究者との意見交換を通じて、着実に進展している。また、実証分析についても、データ処理の自動化や分析手法の効率化により、遅れを取り戻しつつある。今後は、これらの遅れを取り戻すべく、研究スケジュールの調整や研究リソースの再配分を行い、プロジェクトの目的達成に向けて努力したい。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針としては、以下の2点を重点的に進めていく予定である。 1) 寡占的一般均衡モデルの理論的拡張: 労働組合と公的企業の関係性を組み込んだモデルの構築を引き続き進める。特に、モデルの安定性や現実との整合性を確保するための工夫を施し、より頑健な理論モデルの開発を目指す。また、モデルから得られる政策的含意についても考察を行う。 2) 各国の労働組合と公的企業に関する詳細なデータを用いて、民営化が労働市場や経済厚生に与える影響を実証的に分析する。特に、労働組合の加入割合や労働組合と公的企業の関係性が、民営化の効果にどのように影響を与えるかを明らかにする。また、分析手法の改善により、より信頼性の高い結果の導出を目指す。 これらの研究方針を着実に実行することで、公企業の民営化が労働市場や経済厚生に与える影響について、さらに深い知見を得られることが期待される。また本プロジェクトの成果が、各国の民営化政策の立案や実施に寄与することを目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は基礎モデルの構築に時間を要したため、国内学会・国際学会などの外部での研究報告の機会を設けることができなかった。また、関連研究について国内学会において意見交換などを通じて、研究遂行上重要な成果を得ることができたが、その回数は必ずしも多いものとは言えなかった。今後は、基本モデルが構築できたことから、研究プロジェクトについて進行度は改善するものと考えている。 また、共同研究についても継続して進んでいるが、研究代表者のスケジュールの問題で福岡で研究打ち合わせを行う機会が多かったこともあったが、来年度以降はこちらから本研究プロジェクト関連のディスカッションを進める予定である。
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