研究課題/領域番号 |
21K13316
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
小原 拓也 中央大学, 商学部, 准教授 (40848173)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 最適課税理論 / 育児に関する意思決定の非効率性 / 非線型労働所得課税 / 物品課税/補助 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、家計内での育児と介護に関する非効率性を同時に考慮することで、少子高齢化の進展において持続可能な社会を実現するための最適な育児・介護政策を規範的に明らかにすることである。 今年度は介護に関する意思決定の問題を考慮した分析まで進めることができなかったため、育児に関する家計内での非協力行動から生じる非効率性のみを考慮した下での最適な育児政策を考察した。最適課税理論の枠組みを用いて分析を進めたため、税制の側面から望ましい政策介入を検討しており、政府は非線型労働所得課税と物品課税/補助を実行できると仮定した。 本研究から得られた結果は主に以下の3つにまとめられる。第1に、家計内での非協力行動によって育児時間の過小供給が生じた場合には、所得課税を用いて非効率性を是正することが望ましい。第2に、家計内での非協力行動によって育児に必要な財・サービスの過小需要が生じた場合には、非効率性の是正のために所得課税ではなく、むしろ所得補助が望ましくなる可能性が示された。またその際には、育児に必要な財・サービスへの物品補助によって過小供給の問題がより緩和されることも明らかにされた。第3に、世帯単位課税ではなく日本の税制のように個人単位課税を採用する場合であったとしても、家計が非協力的である場合には各家計の配偶者の労働所得も考慮した上で税制を構築した方が公平性の観点から望ましいことが明らかにされた。この結果は、協力的な家計を前提とする先行研究において示されてきた、個人単位課税に配偶者の労働所得を税制に反映すべきではないという結果とは異なるものであり、配偶者控除などの税制措置を支持する結論が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題を遂行するためには家計の介護に関する意思決定を反映した上で、介護の供給過多といった非効率性をモデルに描写する必要がある。しかし現時点では、介護の意思決定の問題を理論モデルに反映できていない。また本研究では、実際の政策形成において有効な結果を提示するために定量分析を行う予定であるが、所得分布などに関する適切なデータの収集やMATLABを用いた最適税率の導出方法に関して現在模索中である。
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今後の研究の推進方策 |
来年度以降において、まずはこれまで得られた家計の育児に関する意思決定の非効率性のみを考慮したモデルの結果に基づいて、現実のデータを用いて最適な再分配政策に関する定量分析を行う。次に、拡張論文として家計の介護に関する意思決定の非効率性も考慮したモデルを構築し、望ましい政策を考察する。最後に現実のデータから、育児だけでなく介護も含めた包括的なモデルにおける最適な政策加入に関する定量分析を行い、現実の政策に有効な結果を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度において研究の進捗がやや遅れたことで論文の完成に至らず、人件費・謝金への支出が次年度に繰り越されたことが原因である。次年度使用額は翌年度分として請求した助成金の一部と合わせて人件費・謝金に使用する予定である。
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