研究課題/領域番号 |
21K13324
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 信用リスク / 拡散過程 / 最終通過時刻 / パラメータ変化 / 検出 / リスク管理 |
研究実績の概要 |
研究実施計画通り、企業の信用力を表す拡散過程のダイナミクスにおける変化に基づき、信用力の変化の度合いを指標として数値化する方法の研究を行った。第一に、拡散過程のパラメータがある一定の水準(境界線)の上と下の領域において異なる場合、境界線の最終通過時刻の分布(ラプラス変換)を明示的に導出した。このようなパラメータの変化は内生的に起こり、最終通過時刻以降にダイナミクス変化後の拡散過程は変化前の水準へ戻らない。本研究の成果は、信用リスクの高いと低い領域を分ける境界線の上と下における企業価値の違いを考慮するレバレッジ比率(企業価値に占める負債の割合)の拡散過程モデルへ応用可能である。特に、現時点から、高い信用力が維持される最後の時点までの期間の長さの分布を与える。企業の財務諸表や市場データから推定されたパラメータに基づいて計算されるこの分布は信用リスク管理において有益である。最終通過時刻に関する本研究の成果をまとめた論文は査読付英文学術誌にて審査中である。
更に、負のショックの影響を明示的に考慮する企業価値の拡散過程モデルから導出したデフォルト距離を分析した。信用リスク分析で用いられる指標であるデフォルト距離の値が小さい場合、債務不履行に陥る確率は大きい。企業価値の標準的なモデルとの比較によって、ショックの影響を考慮するモデルから得られたデフォルト距離の指標が信用力低下に関するアラーム機能をもつことを数学的に証明した。企業の財務諸表と市場データを用いて、計算負荷の小さい方法で本指標は推定できる。信用力の変化を経験した企業のデータ分析によって、本指標は効率的な信用リスク管理のツールとして有益であることが確認できた。
令和3年度において構築した、業歴の長い大企業の信用力変化の検出方法に関する成果をまとめた論文は査読付英文学術誌Journal of Riskに掲載した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究では、拡散過程の振る舞いのみに基づく計算負荷の小さい内生的なメカニズムで信用力の変化を捉えた。信用力の変化を記述する拡散過程のダイナミクスを基に、最終通過時刻の分布や信用力低下に関するアラーム機能をもつデフォルト距離という指標の観点から信用力の変化の度合いを数値化した。これまでの研究成果は効率的な信用リスク管理方法を提供しており、本研究の目的を十分に達成できたと言える。
|
今後の研究の推進方策 |
国際研究集会SIAM Conference on Financial Mathematics and Engineering (FM23)とThe 10th International Congress on Industrial and Applied Mathematics ICIAM 2023での発表を行い、研究結果の精緻化に取り組む。令和5年度において、これまでの研究成果をまとめた論文の査読付英文学術誌への掲載を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究発表が採択された、ファイナンス工学に関する重要な国際研究集会は令和5年度に開催される。令和4年度における外国旅費支出額はゼロであるため、次年度使用額が生じた。令和5年度の予算は外国旅費として使用する予定である。
|
備考 |
令和4年度に公開したプレプリント (arXiv上で公開)"On Decomposition of the Last Passage Time of Diffusions" (M. Egami, R. Kevkhishvili)
|