研究課題/領域番号 |
21K13336
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
永島 昂 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (10733321)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 鋳物工業 / 戦時期 / 下請工業 / 技術格差 / 工業整備 / 工業統制 |
研究実績の概要 |
2021年度は「戦時鋳物工業統制の展開と実態」についての研究を進め,その成果を経営史学会第57回全国大会(東北大学)で発表した。 戦時鋳物工業統制の特徴は,第一に,技術水準が低いと問題視された既存の鋳物業者を時局関係機器の増産に活用したこと,第二に,機械鉄鋼製品工業整備要綱では鋳物工業は「下請」とは扱わないとされ,「下請工業の整備」とは別枠組みの鋳物工業整備が展開されたことであった。鋳物工業整備では下請関係の「専属化」ではなく,「高度ノ技術ヲ要スル鋳物」の生産工場を指定する指定工場制度により「製品の専門化」を実現し,技術水準の向上が目指された。その一方で,「弱小工場」は整理統合の方針が取られた。しかし、こうした方針にも関わらず、埼玉県川口,大阪府などの鋳物産地では指定工場制度から外れた工場を自主的な受注団体という形で組織し,指定外工場を分業生産に参加させるという実態があった 。鋳物工業整備は当初の計画や目標から実態がずれていき,整備計画自体を修正せざるを得なくなっていく。そこでこの研究では,戦時鋳物工業統制の展開とその実態について検討し,近現代の鋳物工業の歴史的展開のなかで戦時統制が持った意味について考察した。 戦時期の工業統制は,鋳物工業に対して次のような変化をもたらした。それは①戦時鋳物工業統制を契機として鋳物工業の生産品目に不可逆的な変化(機械鋳物の生産比率上昇)を生じさせたこと,②機械鋳物生産への移行にともない中小鋳物業者に技術変化が生じたこと,③戦時期に形成された受注団体や企業集団という同業者関係や技術交流は戦後にも引き継がれたこと,である。このような変化が起きたが,当初問題視された鋳物工業の技術格差は克服されず,戦後に引き継がれることになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、戦時期中小工業の最も重要な先行研究である植田浩史(2004)『戦時期日本の下請工業』ミネルヴァ書房と対峙して、本研究の独自性を見出す努力を行った。その結果、鋳物工業などの素形材産業は戦時下請政策のなかで「下請」とは別枠組みで政策が検討され、実施されたことを見出すことに成功した。この枠組みに沿って、収集した資料を分析し、鋳物工業の戦時統制と実態に迫ることができた。 以上のような進捗状況のため、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は昨年度に発表した成果を論文化する計画である。そのうえで、戦後復興期の研究を進めていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、コロナパンデミックのため旅費の支出が大幅に減ったからである。次年度は、資料購入費として使用する計画である。
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