研究課題/領域番号 |
21K13421
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研究機関 | 北星学園大学 |
研究代表者 |
寺林 暁良 北星学園大学, 文学部, 講師 (60847656)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 多義的実践 / 環境ガバナンス / 地域課題解決 / ガバナンスのダイナミズム / 問題フレームの脱却 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、環境ガバナンスのなかに多様な地域課題(福祉や産業振興など生活全般の課題)の解決を組み入れる「多義的実践」の理論を確立し、さらに実践モデルとして提示することである。当該年度は、(1)北海道札幌市近郊の都市農業、(2)鹿児島県奄美市の森林管理、(3)ドイツ・ルール地方の水管理や再生可能エネルギー事業について調査を実施する計画であり、それぞれほぼ計画に沿って調査を遂行した。 (1)については、札幌市や北広島市、石狩市などで農福連携や農泊事業、多世代交流に取り組む農業者や事業者へのヒアリングを実施した。(2)については、奄美大島や請島、沖永良部島で自然資源の利用・管理に関する調査を実施した。(3)については、ドイツ・ルール地方の2ヶ所の水管理組合のほか、国境を接するオランダの水管理委員会でもヒアリングを実施した。また、ドイツでは再生可能エネルギーの地域での受容性に関する調査も実施した。 当該年度は、これらの研究成果としての公表も進めた。まずは環境社会学会誌『環境社会学研究』では奄美大島でのソテツ林管理について分析し、a. 管理の手段を広げること、b. 事業の評価軸をずらすこと、c. コモンズとしての認識を広げることという3点を「多義的実践」の意義として示した。また、環境社会学会では草地の管理について、日本造園学会では再生可能エネルギー事業について、それぞれ「多義的実践」をもとに利害関係者のコミュニケーションを広げることの意義について報告を行った。 これらの成果から「多義的実践」の概念の幅広い適応可能性が示されつつある一方、プロセスデザインの方法と限界など、今後の検討課題も改めて明確になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、新型コロナウィルス感染症への対策を行いながら、前年度に実施できなかった分も含めて、ほぼ予定通り奄美大島やドイツでの調査を実施することができた。また、多義的実践の意義については学会誌に論文を掲載することができたほか、学会報告などを実施することにより、各調査地の実践の成果や課題を明確にし、理論・実践モデルの形成に向けた分析を深めることができた。 以上のことから、本研究は総合的にみるとおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後も順次現地でのヒアリング調査を実施する。これらによって得られたデータは、質的分析ソフトなどを活用して分析し、「多義的実践」の理論と実践モデルの形成を進めていく。調査と分析については、具体的には次のように進める。 第一に、当該年度も調査を実施した都市近郊林や荒廃農地の管理のあり方に関する調査とその成果の取りまとめを進める。特に、農泊事業や多世代交流事業による都市近郊農地の保全の可能性と限界について、その事業成立過程に着目しながら研究を進める。 第二に、当該年度に調査を実施した奄美大島や請島、沖永良部島における二次林や海岸の保全・管理に関する調査をとりまとめ追加調査を実施する。これについては、環境社会学会の学会誌に論文を発表するなど分析枠組みの整理は進んでいるため、現場での実践を追加調査することで、実証的な考察を深める。 第三に、こちらも当該年度に実施したドイツ・オランダでの水管理や再生可能エネルギーをめぐる「多義的実践」に関する調査をとりまとめ、追加調査を実施する。これらについても、学会発表や論文、書籍などで理論的分析を進めることができているため、現場のリアリティと照らし合わせることにより、さらなる理論・実践モデルの精緻化をすすめる。 以上3つの調査地それぞれについて研究成果の公表を進め、最終年度に向けて、それらを包括する大枠の理論・実践モデルの構築を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度は新型コロナウィルス感染症流行の影響で調査が制限されたため、今年度の使用額が多く発生した。今年度は調査を実施することができるようになったものの、前年度の使用額を使い切るには至らなかった。次年度使用額については、その分の調査費とする。
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