研究実績の概要 |
待機についての社会学的解明を目指す本研究は、これまで、アルフレッド・シュッツの理論枠組みに依拠しながら、「行為」と「時間」という観点から待機にアプローチしてきた。本年度は、まず、待機を規定する時間のあり方について、認識論的な観点から研究を行い、学会報告を行なった。 また、行為論から待機の研究を進めた。この点でのこれまでの研究成果としては、待機はシュッツの言う「負の行為」であり、外的に観察可能な身体動作を伴うわけではないということが挙げられる。 そのうえで、このたび得られた成果としては以下2点が挙げられる。第一に、待機は必ずしも外的に観察可能なわけではないがゆえに、公共空間においては、「待機をしている」ということを外的に示す必要があるということである。本を読んだり、スマートフォンを操作したりすることによって、人々は自身が待機している(doing waiting)ということをディスプレイし合っているのである(Ayass, Ruth, 2020, “Doing Waiting: An Ethnomethodological Analysis,” Journal of Contemporary Ethnography, 49(4): 1-37.)。第二に、ではなぜこうしたディスプレイを行なっているかというと、何もしないことdoing nothingは、公共空間の規範に抵触するからである。たとえばScheffの明らかにしているように、公共空間で何もしないことは、精神疾患の兆候としてみなされる傾向にある(Scheff, Thomas J. 1984. Being Mentally Ill: A Sociological Theory. 2d ed. New York: Aldine de Gruyter)。 このようにして、シュッツの行為論から出発した本研究は、ゴフマンやエスノメソドロジー的な問題圏へと入っていくに至った。これが本研究の今年度の成果である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究により、待機を何もしないこと(doing nothing)との関連で検討していくという研究の道筋がついた。近年、Scott, S. 2020, The social life of nothing. Silence, Invisibility, and Emptiness in tales of Lost Experiences, Routledge.や、Stanley, Steven, Robin James Smith, Eleanor Ford, and Joshua Jones. 2020. “Making Something out of Nothing: Breaching Everyday Life by Standing Still in a Public Place.” The Sociological Review, 68 (6): 1250-72.など、「何もしないこと」についての研究が精力的になされている。来年度は、こうした文献を頼りに研究を進めたい。 また、こうした行為論的なアプローチと、時間論的なアプローチがどのように接合されるのかということについても、今年度検討を進める予定である。
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