研究課題/領域番号 |
21K13449
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研究機関 | 関東学院大学 |
研究代表者 |
藤浪 海 関東学院大学, 社会学部, 講師 (90819947)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 沖縄 / 移民 / トランスナショナリズム / ディアスポラ / エスニシティ / 自治体政策 |
研究実績の概要 |
2021年度は主に以下の4つのアクターに着目した調査を実施した。 第一のアクターとして、「世界のウチナーンチュの日」を発案した南米からの帰還移民2名に注目し、そのインタビュー記録から、なぜ両名が「世界のウチナーンチュの日」を発案し、そこにどのような構想が込められたのかを検討した。その結果、デカセギ移民とは異なる形で沖縄社会に帰還した経験がこの記念日の発案に結びついていることが明らかになった。 第二のアクターとして、沖縄県庁に注目し、その職員のインタビュー記録から、なぜ県庁が「世界のウチナーンチュ」とのネットワークを強化する政策に取り組んでいるのかを検討した。その結果、日本国内でマイノリティとしての立場にある沖縄にとって、世界中の移民とのネットワークがそうしたマイノリティとしての立場を覆していく可能性をもった重要な資源として位置づけられていることが明らかとなった。 第三のアクターとして、沖縄県庁によって設置されたUNC(ウチナーネットワークコンシェルジュ)に注目し、その活動の参与観察を実施した。同団体が、沖縄に暮らす人々(なかんずく中学生から20代の若者世代)と海外の沖縄ルーツの若者を結びつける役割を果たしていることを明らかにすると同時に、沖縄移民に関する史料をそうしたウチナーネットワークの形成に欠かせないものとして位置づけ積極的に収集していることを明らかにしてきた。 第四のアクターとして、離散先社会である横浜市鶴見区の沖縄・南米コミュニティに注目し、15名のライフヒストリーを伺うとともに、上記沖縄側からの取り組みがいかに離散先社会に影響しているのか、その参与観察を行ってきた。UNCが鶴見沖縄県人会を訪問するなど沖縄とのつながりが再形成される様子が明らかになったと同時に、県人会側も世界のウチナーンチュとのつながりを用いて自らの事業を進めていこうとしていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
順調に進展しているとの評価は、以下の3つの理由による。 第一に、研究成果の発表について、論文投稿を2本、学会発表を1回、行うことができた。論文投稿に関しては、帰還移民による「世界のウチナーンチュの日」の発案経緯をすでに論文としてまとめ、日本移民学会編『移民研究年報』での掲載が決定している。また沖縄県庁によるウチナーネットワーク強化推進事業の政策意図に関しても、移民政策学会編『移民政策研究』での掲載が決定している。学会発表に関しては2022年3月の関東社会学会2021年度第1回研究例会において、鶴見の沖縄・南米コミュニティがコロナ禍のなかでそのネットワークを越境的に拡張させている状況などを報告することができた。 第二に、未発表の研究成果についても、着実に発表準備を進めることができている。「世界のウチナーンチュ」に関するNPO団体やUNCの取り組みの参与観察記録を整理することができたほか、離散地である鶴見に暮らすウチナーンチュのライフヒストリーに関しても文章化を進められ、今後の成果発表に向けた準備を進めることができた。 第三に、今後の研究に向けた準備の進捗である。これまでの調査過程で、2022年度に実施予定の世界のウチナーンチュ大会の実行委員会事務局とのつながりを得ることができた。さらに実行委員会事務局に調査協力をいただき、実行委員会の参与観察を行うなど、世界のウチナーンチュ大会調査に向けた準備を着実に進めることができた。加えて、沖縄テレビで「世界ウチナーンチュ紀行」のディレクターを務めた人物や過去の世界のウチナーンチュ大会実行委員会委員長、沖縄移民に関して積極的に資料収集や展示に取り組む沖縄県立図書館とのつながりを得ることができたなど、今後の研究の進展に向けさまざまな可能性を拓くことができた。
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今後の研究の推進方策 |
現在、計画しているのは以下の4つの調査である。 第一は、世界のウチナーンチュ大会の調査である。「復帰」50周年の節目に開催されるこの大会において、沖縄移民がいかに表象されなおすのか、参与観察を通じて明らかにしていく予定である。またこの大会にかかわったアクター(企業や帰還移民の団体を含む)にも順次インタビューを実施し、この大会がいかなる力学のもと推進されているのかを明らかにしていきたい。 第二に、沖縄県立図書館の調査である。沖縄県立図書館は積極的に移民資料を収集し、それを海外のウチナーンチュが沖縄につながるための材料として提供するなど、沖縄ディアスポラの構築過程おいて重要な役割を果たしていると考えられる。沖縄県立図書館がいかなる意図をもってこうした事業を実施し、越境的なコミュニティ形成において図書館がいかなる役割を果たしているのか、今後参与観察やインタビュー調査を実施しながら明らかにしていきたい。 第三に、横浜市鶴見区における越境的なネットワークの形成過程の研究である。現在、横浜市鶴見区では、沖縄県人会によって世界のウチナーンチュとのネットワークを活用した取り組みの計画が進んでいるほか、沖縄系南米出身移民のNPO団体によるブラジルの沖縄コミュニティとのつながりの構築が進んでいる。これらの取り組みにはもちろん、ウチナーネットワークの形成に関する沖縄側からの取り組みもかかわっている。こうしたなかでいかに越境的なネットワークの形成が進んでいくのかを明らかにしていきたい。 第四に、沖縄における学校・社会教育のなかの移民に関する調査である。沖縄においては学校・社会教育において、移民に関するさまざまな取り組みがなされている。それらの取り組みが何をきっかけに始まり、どのような人々によって、何を意図されながら推進されているのかを、参与観察調査やインタビュー調査によって明らかにしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度はコロナ禍により、沖縄への渡航が困難な時期があり、また沖縄で参与観察を行う予定であったイベントもその多くがオンライン化することとなった。また当初2021年度に開催予定であった世界のウチナーンチュ大会も、2022年度に延期されることとなった。そのため、対面でのインタビュー調査は横浜市鶴見区で実施することとし、沖縄でのイベントに関してはオンラインでの参与観察を中心に実施することとなった。そのため旅費を当初の予定額を下回る形で調査できることとなった。 2022年度は、世界のウチナーンチュ大会が延期の上開催される予定であり、また沖縄県立図書館やUNC、帰還移民関連の団体などへのインタビュー調査を実施するため複数回、沖縄への渡航を要することとなる。また今後、オンライン開催であった各種イベントも、対面開催に移行することが予想される。その際に繰り越した助成金を用いながら、調査を進めていく予定である。
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