研究課題
疾患や障害を持つ親やきょうだい児のケアを子どもの頃から担っている「ヤングケアラー」については、日本において、十分に認識されていない。ヤングケアラーの実態把握と支援策検討のための研究として、①国際比較可能なヤングケアラー調査質問紙の作成、②中高生を対象にした質問紙調査によるヤングケアラー存在率・ケア内容・友人関係や学びへの影響などの調査、③ヤングケアラー経験者を対象にしたインタビュー調査によるヤングケアラー経験のポジティブな影響の調査を計画した。2021年度は、英国チームとの共同で、ヤングケアラーの同一の定義・基準による、国際比較可能なヤングケアラー調査質問紙の作成を行った。また、中高生を対象にした質問紙調査によるヤングケアラー存在率の調査を行った。英国(BBC/ノッティンガム大学調査)におけるヤングケアラー存在率とケアの内容を調べた調査票を原著者の許可を得て、日本語に翻訳し、313人の若者を対象に信頼性と妥当性検証の調査を行った。調査・解析の結果、信頼性と妥当性が良好であることを確認した(Young Carers Scale Japanese version (YCS-J))。さらに、5,000人の中学生・高校生を対象とした学校調査により、ヤングケアラーの存在率は7.4%と推定された。YCS-Jは、国際的に比較可能な尺度として、日本におけるヤングケアラーの実態把握や、教育・福祉・医療の連携による支援の普及・実施に役立つと考えられる。質問紙作成について、国際集会での発表や論文執筆を行い、国際誌に投稿した(under review)。
2: おおむね順調に進展している
国際比較可能なヤングケアラー調査質問紙の作成を行った。具体的には、英国(BBC/ノッティンガム大学調査)におけるヤングケアラー存在率とケアの内容を調べた調査票を原著者の許可を得て、日本語に翻訳した。この日本語版質問紙は「ケアをしている家族との間柄(母親など)」「ケアを必要とする理由(家族のもつ疾患など)」「ケアの内容(家事・アルバイト・きょうだい児のケア・精神的ケア)」「生活への影響(本人が友達と過ごせているか、学びを経験できているか、人助けを実感しているか)」「本人の性別・学年」で構成されている。313人の若者を対象に信頼性と妥当性の検証を行った。収束的妥当性を調べるために、向社会性を評価する尺度・実際のケア時間や学校の遅刻・欠席時間を尋ねる質問項目を入れて、ヤングケアラー尺度との相関係数の計算をした。その結果、Young Carers Scale Japanese version (YCS-J)の信頼性・妥当性は良好であった。さらに、5,000人の中学生・高校生を対象とした学校調査により、ヤングケアラーの存在率を推定した。首都圏の若者5,000人におけるヤングケアラーの存在率は7.4%と推定され、欧米諸国や日本で標準化されていない方法を用いた最近の調査で報告された値と同等であった。また、ヤングケアラーはそうでない人に比べ、向社会的行動と情緒的症状について有意に高いスコアを示した。YCS-Jは、国際的に比較可能な尺度として、日本におけるヤングケアラーの実態把握や、教育・福祉・医療の連携による支援の普及・実施に役立つと考えられる。質問紙作成について、論文執筆を行い、国際誌に投稿した(under review)。
2021年度に作成したヤングケアラーに関する質問紙のフルスケールを用いて調査を行い、ヤングケアラー存在率やその内容、生活への影響などを把握する(日英共同研究)。対象は、協力の得られた中学校・高等学校の生徒 約5,000名(回答率80%として、有効回答4,000名)とし、作成した質問紙のフルスケールを用いてヤングケアラーの実態調査を行う。具体的には、「ケアをしている家族との間柄(母親など)」「ケアを必要とする理由(家族のもつ疾患など)」「ケアの内容(家事・アルバイト・きょうだい児のケア・精神的ケア)」「生活への影響(本人が友達と過ごせているか、学びを経験できているか、人助けを実感しているか)」「本人の性別・学年」などの詳細を明らかにしていく。これらにより、教育・福祉・医療の連携による具体的な支援策の根拠とする。調査の際には、対象者の社会経済的背景を考慮し、対象校に公立中学校・公立高校を加えることや、対象者に性別の偏りがないようにすることなどについて留意する。本調査については、適宜、澁谷智子博士、日本ケアラー連盟の関係者、ヤングケアラーの中でもきょうだい会の立場の方などを招聘しスーパーバイズを受ける。存在率と実態調査について、論文執筆を行い国際誌に投稿する。
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