「生もと系清酒」とは、伝統的な清酒醸造技術「生もと系酒母造り」で醸造した清酒であり、製法の特異性と複雑で濃醇な味わいから、近年注目を集めている。本研究では、生もと系清酒の複雑で濃醇な香味の原因物質を解明するため、生もと系清酒に特徴的な香気成分を明らかにする。前年度までに、Solvent Assisted-Stir Bar Sorptive Extraction (SA-SBSE)-Gas Chromatography-Mass Spectrometry (GC-MS)およびSA-SBSE-GC-Olfactometry (GC-O)により、生もと系清酒の香気形成への寄与度が高い45の香気成分ピークを特定し、同一酒蔵由来の生もと系清酒と速醸系清酒を比較することで、いくつかの極性香気成分が生もと系清酒に多く含まれることを明らかにした。 本年度は、7つの酒蔵で醸造された生もと系清酒と速醸系清酒(7酒蔵、14試料)を対象に、SA-SBSE-GC-Oで特定した45の重要香気成分について、SA-SBSE-GC-MSで評価したところ、生もと系清酒にethyl mandelate、ethyl 2-hydroxy-4-methylvalerateなどの極性香気成分やγ-6-(Z)-dodecenolactoneが多く含まれていた。即ち、前年度に明らかにした同一酒蔵と同様に、複数酒蔵においても、これら香気成分が多く含まれることが明らかとなった。また、本研究において、SA-SBSE-GC-MSによる多検体試料(14試料、n=3)のターゲットプロファイリングが、清酒の香気特性把握に有効であることも示された。さらに、清酒醸造中の酒母、醪を香気成分分析した結果、生もとの酒母発酵工程において、γ-6-(Z)-dodecenolactoneが急激に増加していることが明らかとなった。
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