本年度の研究の成果は、次の二点に集約できる。 第一に、ドイツの授業研究が教師教育の中でどのような意義を有しているのかを検討できたことである。特に、「教授学的授業研究」という立場を標榜するバルトルシャット(A. Baltruschat)の論考を取り上げ、教師教育の中で、授業研究を通して授業づくりや授業分析に関する教授学的な知見を取り扱うことの意義や役割を検討した。この検討から、教授学的知見は、授業分析や授業づくりのための「照準点」を明確にするという意義を持つものであり、そこに現在の教授学のあり方の変容を見出せることを明確にした。この研究成果は、査読論文として掲載された。 第二に、これまで行ってきた教育実践を研究するための記録、分析、解釈に関する検討をもとに、授業研究のアーカイブを開発したことである。そのために、授業に関する記録を記録し、アーカイブ化していくうえでの法的問題、倫理的問題、技術的問題について検討した。その検討を踏まえ、授業研究や授業分析の方法を提示することで教師教育に資することができ、また記録を教育研究にも活用できるような授業研究アーカイブを構築した。 本研究では、日本の授業記録の特徴や授業分析の方法とドイツのそれとを比較するまでには至らなかったが、ドイツの授業研究の知見を踏まえながら、授業研究や授業分析の方法を含めた授業研究アーカイブを、公開範囲は限定的ながらも、構築することができたことが研究の最終的な成果である。
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