本研究は、通常学校に在籍する障害児とそれを取り巻く人々との相互作用に照準し、そこで生成していくネットワークの様態を追跡的に明らかにすることを目的に行われた。 その際、本研究においては、研究期間を通じてインクルーシブ教育の先進地域と目される大阪のある市に立地する小学校を対象としてフィールドワークを行ってきた。それにより、教員たちがどのように障害児を含む子ども集団を対象化し、日常の教育活動を組織しているのかを詳らかにし得ただけでなく、その一員として障害児を内包する子ども集団がその都度構成するコミュニケーションの内実にアプローチすることもできた。 とりわけ、障害児のいる学級コミュニティの秩序を構成していくメンバーのコンピテンスを明らかにしえた点は本研究の重要な成果である。本研究が着目したのは、全盲の子どもとそれをめぐる社会関係である。子どもたちは、視覚障害にレリバントな諸々の道具を当該盲児と共同使用することで、双方の流儀を横断する共通のアイデンティティをともに樹立し、特有の秩序をもつ学級コミュニティを相互的に構成していた。 またこの間、授業研究も行ってきた。その成果としては、例えば生活科の授業の一環として行われたすごろくゲームのビデオ分析を通じて、情報の提供や行為の代行といった工夫を組み込みながら、すごろくにまつわる一連の活動をデザインする健常児たちの工夫であったり、自らにとって可能な行為の範囲を他の児童との相互作用の中で特定しながらすごろくゲームへの参加を組織化していく全盲児の方略を明らかにした。 これらに加え、最終年度においては、近年のイギリス障害学ならびにイギリス教育社会学における障害児教育研究の展開を、質的な調査手法に基づく実証研究を中心にレビューする作業を行った。そうすることで、障害児教育に対する人文社会科学的研究の現状と到達点をある程度把握することに成功した。
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