研究課題/領域番号 |
21K13547
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
谷口 晴香 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (60780450)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 霊長類 / 寛容性 / 地域間比較 / 社会進化 |
研究実績の概要 |
寛容性は、ヒトの社会行動の特徴としてしばしば指摘される、食物分配や協力行動などの基盤となる性質である。マカカ属のサルの社会構造は、おおまかに専制的な社会と寛容的な社会に分けられ、ニホンザルは専制的な社会に分類される。近年ニホンザルの種内において、寛容的なマカクに似た行動形質を持つ個体群(例. 屋久島)が報告されており、「寛容性」がヒトの系統以外でも平行進化したことが示唆されている。ヒトの社会では、「子どもの集まり」が託児の場として機能しており、ヒトの社会的な寛容さがこのような育児形態を可能としたことが示唆されている。 本課題では、野生ニホンザルを対象に、1)子どもの集まりの機能を調べ、2)子どもの集まりの様相(頻度、時間長、オトナ個体の参加頻度など)を専制的な個体群(青森県下北半島)と寛容的な個体群(鹿児島県屋久島)間で比較し、社会的な寛容さと育児形態間の関係を検討する。そして最終的にはヒトの育児形態の特徴と照らし合わせ、その進化を考察することを目的としている。 本年度は屋久島の野生ニホンザルを対象に、春から夏にかけアカンボウの数を確認し、対象群の選定を行った。そして、冬季にアカンボウの集まりに関するデータを収集した。調査中に、アカンボウ同士で近接しての移動や採食がみられた。また、アカンボウのみでのさるだんごの形成(互いの胴体を接触させ暖をとる行動)も観察した。ときにその集まりのなかに、年上の個体が混じり、アカンボウを抱いたり、運搬したり、毛づくろいしたり、共にさるだんごを形成したりする様子もみられた。このように、母親を含む周囲のメンバーに手掛けられながらも、食物選好性の類似したアカンボウ同士で集まり採食しつつ、ときにさるだんごを形成し体温低下のリスクを軽減している可能性が示唆された。本調査の予備的な結果を3月に国内学会で発表し、アカンボウの集まりの機能について議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染拡大のため、予定していた青森県下北半島での野外調査を実施できなかったため、「やや遅れている」とした。 2021度に屋久島の野生ニホンザルを対象に「子どもの集まりの中での育児」に関するデータは収集できた。また、その予備的な結果を国内学会で発表しアカンボウの集まりの機能などに関し、人類学者と意見交換を行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、青森県下北半島の野生ニホンザルを対象に、「子どもの集まりの中での育児」に関するデータを収集予定である。鹿児島県屋久島の個体群についても引き続き育児に関する行動データを収集する。また、2021年度に屋久島で取得したデータを分析し、学会や研究会などで発表を行う予定である。そして、研究会の場などで人類学者と議論を重ね、育児に関するサルとヒト間の比較研究の推進を目指す。 新型コロナウイルスの感染状況により野外調査が順調に進まない場合には、過去に取得した育児行動のデータを整理・分析し、論文執筆後、英文雑誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大のため、2021年度に予定していた青森県下北半島での野外調査が実施できなかった。そのため、2022年度に下北半島での長期野外調査を実施予定であり、次年度使用額はその旅費に充当する。 2022年度においても新型コロナウイルス感染症の影響で、野外調査の実施が難しい場合には、過去に取得済みのデータを分析・論文執筆作業を進め、業務委託費(英文校正費)またはデータ解析機器・統計ソフト費に次年度使用額を充てる。
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